クラシカル・クロスオーバーの魅力
ミュージカル『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ役で世界的に有名になったサラ・ブライトマン(1960- )ですが、1990年にアンドリュー・ロイド・ウェバー(1948- )と離婚してからはソロ歌手としての活躍が始まりました。
ミュージカル女優出身だけあって、クラシック、ポップスなど、ジャンルを問わず活躍しましたが、特にクラシックの曲をポップス調に歌ったものは、〝クラシカル・クロスオーバー〟として、新しいジャンルとみなされるようになりました。
彼女は、ポップス的な発声と、3オクターヴに達するソプラノ的な発声の両方できる稀有な存在だからこそ可能になったのです。
しかし、もともと、音楽をジャンル分けするのも便宜的なものです。彼女自身、そのように類型化されるのを『ゾッとする』と述べています。
クラシックの名曲を、ジャンルなどにこだわらず、今の時代に合わせてアレンジして楽しむのは、私も大賛成です。
それは、バッハもモーツァルトも喜んでくれることでしょう。彼らの曲も、作曲当時は〝現代音楽〟だったのですから。
では、そんな彼女のクラシカル・クロスオーバーを、曲によっては原曲と合わせて聴いていきましょう。
Time To Say Goodby
イタリア人歌手アンドレア・ボチェッリとのデュエットで、オペラティック・ポップ楽曲として、1995年に発表、クラシカル・クロスオーバーの先鞭をつけたといわれる曲です。
こちらは、サラのソロ・ヴァージョンです。
バロックの有名曲、『アルビノーニのアダージョ』のアレンジです。トマゾ・アルビノーニ(1671-1751)は、ヴィヴァルディの同時代の作曲家ですが、実はこのアダージョはアルビノーニの作ではありません。イタリアの音楽学者レモ・ジャゾット(1910-1998)の偽作であるということが判明しています。本人は、あくまでもアルビノーニの遺作を発見して編曲した、と言い張っていましたが、今では完全な創作とされています。せっかく広く知られた人気曲を作ったのに、なぜアルビノーニの名を使う必要があったのか、謎です。原曲はこちら。
しかし、アルビノーニの名がこの曲で知られているのも事実です。アルビノーニの名誉のため、素晴らしい彼のオリジナル曲もご紹介します。心から癒される旋律です。
ヘンデル:私を泣かせて下さい
これは原曲に近いアレンジです。ヘンデルの代表的なアリアで、ロンドンで大ヒットしたオペラ『リナルド』の中の1曲、アルミレーナのアリアです。『オンブラ・マイ・フ』と同じくらい有名でしょう。映画『カストラート』の中でも効果的に使われています。邦題には『涙流るる』というのもあります。
こちらは『カストラート』のサウンドトラックです。
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バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
あの超有名コラールが、サラの美声でさらに優しく、神々しく響きます。
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バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の第1曲プレリュードに、フランスの作曲家シャルル・グノー(1818-1893)が旋律を乗せたアヴェ・マリアです。
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こちらはシューベルトのアヴェ・マリアです。私はグノーのものより、こちらが好きです。ソプラノ歌手バーバラ・ボニーのものと聴き比べてください。
Running(ジュピター~栄光の輝き)
原曲は英国の作曲家、グスターヴ・ホルスト(1874-1934)の組曲『惑星』の第4曲『ジュピター(木星)』で、2007年の世界陸上大阪大会で歌われた曲です。日本では平原綾香の歌ですっかり有名になりました。私としては、ジュピターと言えばホルストよりモーツァルトなのですが。
サラ・ブライトマンは1991年の紅白に出場して以来、日本との関りも深いです。CMや番組の主題歌としても多く取り上げられていますが、この曲は2009年から3年にわたって放送されたNHKのスペシャルドラマ『坂の上の雲』の主題歌です。3部に分かれ、それぞれ違う歌手が歌いましたが、第1部はサラが担当しました。司馬遼太郎の明治礼賛には賛否両論ありますが、近代国家として独り立ちを始めた日本を讃える歌です。私には、JALが着陸したときの音楽、として刷り込まれてしまいました。
久石譲:風のとおり道
ジブリ作品は、一連のブロードウェイ・ミュージカルにも劣らない、世界に誇る芸術作品だと思いますが、音楽を多く担当した久石譲は日本のウェバーともいうべき存在です。サラ・ブライトマンは『となりのトトロ』のこの曲に、なんと日本語で歌っています。
日本のこうした名曲も、何百年も伝わって、クラシック、すなわち古典(後世の模範となるべきもの)となっていくのだ、ということを実感させてくれます。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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