Apple Music で広がった世界
今回はベートーヴェンのピアノソナタ 第22番を取り上げますが、いい曲ではあるものの、エピソードが乏しいので、別な話題も書きたいと思います。
それは、Apple Music の最新事情です。
このブログはそもそも、Apple Music のサービスに感動して書き始めました。
サブスク(定額で聴き放題のストリーミングサービス)に出会うまで、何十年もずっとレコードやCDを買い続けてきましたが、ポピュラー音楽と違って、クラシックは同じ曲でも何通りもの録音がありますから、聴きたいCDを全部買っていてはお金がいくらあっても足りません。
また、部屋のかなりの部分をCDが占拠し、しかも常に整理しておかないと聴きたい曲を探すのも一苦労です。
さらに、試聴サービスもあるものの、自分の好きな演奏かどうかは、しっかり聴いてみないと分かりません。
好きな演奏家の新譜なら間違いないだろうと買って、あれ?と思うこともしばしばです。
CDは高価ですから、お試しで買うのはリスクが高いです。
新しい演奏家に出会うのも難しくなります。
ラジオもしょっちゅう聴くわけではありませんし、話題の新譜も自分の好みとは限りません。
サブスクの登場は、まさに自分の人生が変わったくらいの衝撃でした。
特にクラシックでは、出たばかりの新譜も惜しげなくアップしてくれて、ガンガン聴けますので、21世紀まで生きててよかった…と涙しています。
ネックは、ジャケットや解説書がなく、ライナーノーツが見られないことです。
その点を少しでも補完できれば、という志でこのブログを書き始めた次第です。
www.classic-suganne.com
クラシックを聴くなら?
さて、サブスクは、Apple Music 以外にもLine Music や Amazon Music などもあり、サービス内容、価格、曲数、音質などでしのぎを削っています。
どれが一番か?ということは、例えば iPhone ユーザーならApple Music、AndroidならLine Music の方が親和性が高い、など、様々なポイントがありますから、人それぞれでしょう。
ただ、クラシックに関して言えば、海外曲に強いApple Music が優位ではないでしょうか。
さらに、Apple Musicでは、今年、2021年6月から、「ロスレス」と「ハイレゾ」の配信が始まりました。
対応の曲はどんどん増えてきています。
これで、音質においても一歩リードした感じです。
いい演奏をいい音質で聴きたい!というのはクラシック愛好家の飽くなき欲望ですが、私がさっそくこれらに飛びついた体験をお伝えしたいと思います。
まず、「ロスレス」とは何か。
定額ストリーミングサービスでは、CDそのままのデータ量では重くなってしまうので、CDの1/10の情報量に圧縮して配信されています。
CDに劣らない音質に近いのですが、やはり、生演奏で音にならないような音はそぎ落とされています。
「ロスレス」はこうしたデータも拾い、圧縮はCDの2/3までに留めて配信する最新技術です。
これによって、生演奏のライブ感、臨場感がより伝わるようになりました。
「ハイレゾ」は、逆にCDのなんと6.5倍(192kHz/24bitの場合)の情報量で配信される音楽です。
まさに夢のような話です。
これはぜひ聴いてみたい!ということで試してみました。
ただ、これはそう簡単に聴くことはできません。
Apple Music はスマホで受信しているのですが、スマホのスピーカー以外で聴くとなると、スピーカーにしてもイヤホン、ヘッドホンにしても、Bluetooth による無線接続が多くなっています。
しかし、ハイレゾは残念ながらBluetoothでは送れません。
Wi-Fiで特別な接続をしないかぎり、有線でつながなければならないのです。
しかも、そのままではダメで、イヤホン等で聴く場合は、DAC(デジタル・アナログ・コンバーター)搭載ポータブルアンプが必要になります。
また、イヤホンもハイレゾ対応でなければなりません。
かなり値は張るのですが、いい音のため、ということで、思い切って購入しました。
結果は…期待は裏切られませんでした!
オーケストラ曲は、まるで指揮者の位置で聴いているかのようにリアルで、ピアノ曲も臨場感がまるで違います。
さすが!という音質です。
また、このアンプをつけると、「ロスレス」や、そうでない曲の音質もまるで違います。
逆に、あまり「ハイレゾ」と変わらないのでは?と感じるのも多く、私の耳がそこまで聞き分けられないからかもしれません。
これはぜひぜひ、おすすめです。
DACアンプは、お金を出す価値があると思います。
私が買ったのはこれです。
Lightning端子がいつまで使われるのか、ちょっと不安ではありますが。
ただ、スマホで聴く場合、「ロスレス」や「ハイレゾ」はストリーミングにしてもダウンロードにしても、当然のことながらデータ量が格段に増えますので、そこは注意が必要です。
Wi-Fiか、docomoでいえばギガホプレミアのような、データ量が多く使える料金プランでないと、通信量が限界になってしまいます。
データを保存する場合は、クラウドやストレージの容量も大きくする必要があるでしょう。
いずれにしてもお金はかかりますが…。
「空間オーディオ」を聴いてみて
また、Appleでは、6月から「空間オーディオ」の配信も始まりました。
これは Dolby Atmos に対応したもので、立体的な3Dサウンドが聴けるというものです。
Amazon Music でも対応していますが、Appleでは、今月発売された新しいAirPodsで聴けるということで、さっそく購入。
これもまた、素晴らしい音楽体験が味わえます。
「ハイレゾ」のような繊細な雰囲気感はないのですが、音楽の中に飛び込んだような直截的な没入感はまた格別です。
何度も繰り返し聴くお気に入りのアルバムを、これらの最先端の技術で聴くと、まるで新しい曲に出会ったような新鮮です。
特にオーケストラ曲では、これまで聞き取れなかった楽器の音が聞こえて、作曲家の意図を新たに発見したような思いになります。
皆さまのご参考になれば幸いです。
巨人に挟まれた、不思議なソナタ
さて、ベートーヴェンのソナタに戻りましょう。
今回取り上げる第22番 ヘ長調 作品54 は、この時期の作品としては非常に目立たない、こじんまりした曲です。
前後に《ワルトシュタイン》と《アパッショナータ(熱情)》という〝巨人〟に挟まれているところからも、古来、評価の低い曲でした。
この曲を書いた1804年は、初めてのオペラ『レオノーレ(フィデリオ)』の作曲に没頭していた頃で、自筆譜は残っていないのですが、レオノーレのスケッチ帳の片隅に作曲の形跡が残っています。
そのため、当時から、大作オペラの作曲の合間に書き飛ばされたように思われてしまいました。
また、形式としても、2楽章しかなく、しかもソナタ形式の楽章がありません。
出版に際しての献呈者もいませんでした。
しかし、曲のレベルが低いかというと決してそんなことはなく、独特の渋い魅力を秘めています。
実験的な作品、という評価が一般的ですが、そもそもベートーヴェンの創作は、毎度挑戦と実験に満ちています。
作曲の背景もまったく伝わっていないのですが、もうひとつ謎としては、初版の出版のときにつけられた、『第51番目のソナタ』というタイトルです。
作品番号がそもそも53ですし、ピアノソナタをそんなに書いていません。
他の楽器のソナタとの通算か?作品全体の通算か?など、これも古来音楽学者たちが謎解きに挑戦しましたが、ぴったりした根拠は見つかっていないのです。
では、この謎だらけの異色のソナタを聴いていきましょう。
Ludwig Van Beethoven:Piano Sonata no.22 in F-major, Op.54
演奏:ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)
Ronald Brautigam (Fortepiano)
第1楽章 イン・テンポ・ドゥン・メヌエット
きわめてさりげない、静かなメヌエット風のテーマで始まります。メヌエットのテンポで、という指示であって、メヌエットとは明示されていないのですが、形式的にはふたつのトリオをもつメヌエットともいえますし、ロンド形式にも似ています。そうしたことも、この曲が実験的と言われるゆえんです。トリオは同じ調でいきなり激しく、荒々しい形で切り込んできます。左手のオクターブの音型を1小節遅れて右手が追う展開で、このコントラストは見事です。左手はだんだんと遠雷のように遠ざかり、メヌエットに戻ります。メヌエットは変奏され、新しい表情を見せたかと思うと、また激しいトリオに移り、ほどなくまたメヌエットが再現されます。最後はまるでコンチェルトのようなカデンツァがあり、コーダに入ると和音が連打されて、静かに終わります。何とも風変りで不思議な気持ちになる音楽です。
第2楽章 アレグレット―ピウ・アレグロ
16分音符がせわしなく動き回る、無窮動的な音楽になります。低音部がリードするテーマを高音部が追いかけるのは、第1楽章に似ています。形式はロンドでもソナタでもなく、自由に展開していきます。単一主題のシンプルな形と思いきや、音の構造は複雑で、左手が奏でるテーマの中に隠されたモチーフが、楽章の統一動機をなし、それは第1楽章のトリオにすでに仕込まれているのです。そして激しく繰り返される転調の連鎖にはとても平凡な耳はついていけません。コーダはテンポをアレグロに上げて、大騒ぎのドタバタ劇のように幕を閉じます。
目立たない存在ですが、ピリリとした小粒の山椒のようなソナタです。
動画は久しぶりにボリス・ギルトブルグの演奏です。
www.youtube.com
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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