18世紀オペラで生き残っているのは
前回まで、モーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』をご紹介してきました。
今も多くのオペラが上演されますが、一番人気のあるのは、19世紀から20世紀初頭にかけてのイタリアの〝ベルカント・オペラ〟です。
代表は、まずヴェルディ(1813-1901)で、代表作は作曲の早い順から『ナブッコ』『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』『椿姫』『シチリアの晩鐘』『仮面舞踏会』『運命の力』『マクベス』『運命の力』『アイーダ』『シモン・ボッカネグラ』『ドン・カルロ』『オテロ』『ファルスタッフ』などです。
続いてプッチーニ(1858-1924)。『マノン・レスコー』『ラ・ボエーム』『トスカ』『蝶々夫人』『西部の娘』『トゥーランドット』などです。
この分野を拓いたのはロッシーニ(1792-1868)で、フィガロの結婚の前作『セビリアの理髪師』をはじめ、『ウィリアム・テル』など、多くのオペラを作り、ウィーンを席捲して、ベートーヴェンの人気を追いやってしまいましたが、音楽のタイプが18世紀までのものとかなり違います。
18世紀のオペラで、今も一般的に上演されているのは、モーツァルトのものしかないのです。
それはなぜか?
当時、オペラ作曲家としてのモーツァルト(1756-1791)のライバルはたくさんいました。
ウィーンで直接競合していたのは、サルティ(1729-1802)、イ・ソレル(1754-1806)、ガッツァニーガ(1743-1818)、そして因縁のサリエリ(1750-1825)ですが、彼らの音楽は今でもほとんど演奏されず、モーツァルトとの関連でしか歴史で触れられません。
当時、モーツァルト以上に大ウケした曲をたくさん書いたのですが、永遠の命を持った作品ではなく、後世の人には受け入れられなかったのです。
今のヒット曲のうち、時代を超えて愛され、100年後でも残っているのは何だろう、と考えさせられますね。
ビートルズはモーツァルト並みに残るのは間違いないですが、日本では誰でしょうか。
サザンは当確な気がしますが…。
さて、同時代で並び称されるのはハイドンですが、彼のオペラはなぜかほとんど人気がなく、今では全くと言っていいほど演じられません。
まだ演奏の機会があるのは、先輩筋では、ハッセ(1699-1783)、グルック(1714-1787)、同輩では、チマローザ(1749-1801)、パイジエッロ(1740-1816)かと思います。
中でも、チマローザのオペラ『秘密の結婚』は、モーツァルト以外で唯一、今でも普通に上演される18世紀オペラです。
後世に残るという意味では、モーツァルトにかろうじて匹敵したオペラを書いたチマローザ。
彼は1749年に音楽の本場、ナポリの近郊で生まれました。
22歳のときにオペラで成功、ローマで活躍した後、ロシアの女帝エカテリーナ2世の招きでサンクトペテルブルクに行きますが、彼の曲をまともに演奏できるオーケストラも無かったため、ロシアを去り、皇帝レオポルト2世に招かれて、サリエリの後任としてウィーンの宮廷楽長になります。
モーツァルトが望んで得られなかった地位でした。
代表作の『秘密の結婚』を作曲したのもこの時期です。
その後、ナポリに帰って活躍しますが、1799年、フランス革命の余波が及び、ナポリで起きた革命を讃える曲を作ったため、革命が失敗して王政復古したときにあやうくギロチンにかけられるところを、友人に助けられました。
その心労もあってか、1801年に52歳で世を去りますが、彼の作品はヨーロッパ中で上演され、ロッシーニが現れるまではオペラ・ブッファの第一人者としての名声を保ちました。
今でも、ピアノ教室の発表会で、時々チマローザの曲をかわいい生徒さんが演奏するのを聞くことがあります。
史上唯一〝全曲アンコール〟されたオペラ『秘密の結婚』
『秘密の結婚』は、『フィガロの結婚』のように、金持ちの邸宅を舞台とし、従僕が令嬢と秘密に結婚したのを、何とか周囲に認めさせようと手を打つのですが、また伯爵がからんできてややこしくなるものの、結局はめでたし、めでたし、という筋のラブ・コメディです。
レオポルト2世はこのオペラの初演を観て、大いに気に入ってしまい、オペラがはねて食事を摂った後、再度劇場に戻り、オペラを最初からもう一度上演させたのです。
これが、オペラ史上、最初で最後と言われる〝全曲アンコール〟です。
その序曲は、とても楽しくて、私も大好きな曲ですのでご紹介します。
モーツァルトと同じように聞こえるか、それとも違うか、いかがでしょうか。
チマローザ:オペラ『秘密の結婚』序曲
演奏:シモーネ・ペルジーニ指揮 フェテ・ギャランテ・バロック・オーケストラ
チマローザは、最近じわじわと人気が出てきているようで、このような楽しい演奏(動画)もあります。
歌手が宮廷楽長の役をし、オーケストラに無茶な注文を出したりしてユーモラスに演じます。
当ブログでこだわってきた、当時の楽器を当時の演奏方法で再現した古楽器演奏です。
楽器の形がいかに現代と違うかもご覧ください。
そして、現代の楽器よる演奏より、この時代の音楽がフレッシュに聞こえるのも。
演奏:ジョヴァンニ・アントニーニ指揮ジャルディーノ・アルモニコ
D. Cimarosa: Il Maestro di Cappella / Antonini / Novaro / Il Giardino Armonico (Haydn2032 live)
また、今ではほとんど演奏されない、ウィーンでのモーツァルトのライバルたちの曲を集めたアルバムもあります。
モーツァルトやハイドンのオペラ・アリアも入っていて聴き比べのできる、なかなか気の利いた企画です。
アマデウスとウィーン―モーツァルトと、同時代のウィーンの作曲家のアリア集
歌:ロベルト・スカルトリーティ(バリトン)
演奏:クリストフ・ルセ指揮 レ・タラン・リリク
後世に残るかどうかは別として、間違いなくこれらは当時の〝現代音楽〟でした。
18世紀末ヨーロッパの爛熟した音楽シーン、そして時代的雰囲気を、ぜひ味わっていただければ幸いです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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