孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

地球外生命体に届け!グレン・グールド×バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2巻』(1)

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ボイジャーの『ゴールデンレコード』(ジャケット)

平均律クラヴィーア曲集 第2巻

今回から、バッハの平均律クラヴィーア曲集 第2巻にはいります。

成立したのはゴールトベルク変奏曲のあと、1744年ですから、最晩年の作品のひとつですが、各曲自体は以前の旧作を集めたようで、一定の統一感がみられた第1巻に比べると、かなりバラエティに富んでいます。

それぞれの曲がいつ作られたものか、ということはかなりの議論がありますが、はっきり分かっていないようです。

全調性×長調×短調の24曲セットで、それぞれプレリュード(前奏曲)とフーガを組み合わせ、平均律の使い勝手の良さを示す、というコンセプトは第1集と同じです。

第1集の曲は、ラテン的な明るさも感じられる抒情的なものが多いのですが、第2集は音楽的にはより高度なものが多いように思います。

私は最初に第1巻に親しんでから第2巻に移ったのですが、第2巻は〝難しい〟と感じてしばらく敬遠していたのを思い出します。

ずっと第1巻ばかり聴いていて、第2巻をよく聴くようになったのは、グールドの演奏に出会ってからでした。それ以降は、第2巻の方をよく聴いている気がします。

宇宙の彼方へ

グールドの弾く第2巻の第1番は、1977年に打ち上げられた惑星探査船『ボイジャー』1号と2号に「地球の音」として載せられた、『ゴールデンレコード』に録音されています。

ボイジャーは惑星探査を終えた後、太陽系外に出て、他の恒星系へ向かっています。

もちろん、途中で連絡は途切れますので、流れ流れて、いつの日か地球外知的生命体に拾われ、地球の存在を知ってもらう、というロマンあふれた計画です。

2015年現在で、太陽から約195億Km離れたところを飛行中とのことです。

しかし〝お隣の恒星系〟に到達できるのは3万年後ということですから、地球外生命体が見つけた頃は人類はどうなっていることやらですが…。

『ゴールデンレコード』には、55の言語によるメッセージ、動物の鳴き声などの自然音とともに、クラシック音楽では、バッハの『ブランデンブルク協奏曲第2番第1楽章』(カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団)、同じくバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ第3番ガヴォット』(アルテュールグリュミオー)、モーツァルトのオペラ『魔笛』より『夜の女王のアリア』(ソプラノ:エッダ・モーザー、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場)、ストラヴィンスキーの『春の祭典』から『生贄の踊り』(イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮コロンビア交響楽団)、ベートーヴェンの『交響曲第5番第1楽章』(オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団)、アントニー・ホルボーンルネサンス期の作曲家)の『ヴァイオルもしくはヴァイオリン属と管楽器のためのパヴァン集、ガリアード集、アルメーン集ならびにエア集』(ディヴィッド・マンロウ指揮ロンドン古楽コンソート)、ベートーヴェンの『弦楽四重奏曲第13番第5楽章』(ブダペスト弦楽四重奏団)と、このグールドの演奏が収められているのです。

ピアニストはグールドだけですから、〝地球代表〟に選ばれたのはすごいことですね。

CDではなく、アナログのレコードだからこそ、再生可能な気もします。

今も暗い宇宙空間を進みゆくレコード。その行く末は誰も知ることはできないわけです。

バッハ『平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第1番~第8番』

The Well-Tempered Clavier, Book 2 no.1-8 BWV870-877

演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould

第1番 ハ長調(BWV870)

【プレリュード】ボイジャーに搭載された演奏です。グールドのテンポはゆっくりと落ち着いていて、心の芯から癒されます。いつまでも身をゆだねていたいような曲です。これを宇宙人が聴いたら、地球はさぞ平和で慈しみに満ちた星だと思うことでしょう。だんだんとフォルテになっていくのも、感情がたゆたうようで印象的です。

【フーガ】3声。シンプルなテーマがたたみかけていきますが、高貴な香りを宿した素晴らしいフーガです。特に終わり方は情緒あふれています。

第2番 ハ短調(BWV871)

【プレリュード】激しく情熱的な響きですが、聴くうちに、優雅な踊りの音楽であることが分かります。思わず体が動いてしまうような活発なリズムの曲です。

【フーガ】4声。グールドの演奏は、内緒話をしているかのように、ひそひそと語り始め、またひっそりと終わる印象的な曲です。

第3番 嬰ハ長調(BWV872)

【プレリュード】この曲も静かに〝ひそひそ〟と始まりますが、途中でいきなりフーガに転じます。グールドの演奏ではその転換が見事でしびれます。本来はこの曲だけでプレリュードとフーガを構成していましたが、この曲集に組み込まれるにあたり、全体がプレリュードとして扱われたようです。

【フーガ】4声。非常に上品な、落ち着いたフーガです。グールドは、ここでも、だんだんと音量を上げていくことで、胸がいっぱいになるような、絶妙な効果を上げています。

第4番 嬰ハ短調(BWV873)

【プレリュード】女性の問わず語りを聞いているような、しみじみとした情感の曲です。短い中に、人生のドラマが集約されている思いがします。

【フーガ】3声。プレリュードで抑えていた思いが溢れ出たようなドラマチックなフーガです。現代的な響きを感じます。

第5番 ニ長調(BWV874)

【プレリュード】この曲集で最も格式高い香りのする曲です。まるで、老伯爵が優雅にダンスを踊っているかのようです。第1集では見られなかったタイプの曲です。この曲をピアノで自分で弾けたら、どんなにか楽しいことでしょう。

【フーガ】4声。楽しいゲームのような響きのフーガです。全体的に、祝祭的な、外面的楽しみに満ちた音楽です。

第6番 ニ短調(BWV875)

【プレリュード】ニ短調らしい、颯爽とした曲です。ピアノで弾くと、現代曲かと思うほどドラマチックに響きます。

【フーガ】3声。くるくると回転するようなテーマがからみあって展開していきます。そしてからみあったかに見える糸は、素晴らしい織物に仕上がるのです。

第7番 変ホ長調(BWV876)

【プレリュード】実に楽しく、晴れやかな曲です。バロックというより、次の古典派時代を先取りしたような雰囲気があります。

【フーガ】4声。おどけたようなテーマですが、フーガの構成としては、実にオーソドックスに、ある意味堅実に組まれている曲です。

第8番 変ホ短調(BWV877)

【プレリュード】第2番と同じく、舞曲のアルマンドの形式をとっています。エキゾチックな香りもする、哀愁を秘めた音楽です。

【フーガ】4声。何かを訴えているようなテーマが、哀しくも高貴に響きます。クライマックスに近づくにつれて、万感胸に迫る思いのする曲です。

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 1-8, BWV 870-877 - Gould Remastered

Bach: The Well-Tempered Clavier, Book II, Preludes & Fugues Nos. 1-8, BWV 870-877 - Gould Remastered

 

チェンバロの演奏はこちら。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2集(全曲)

クリストフ・ルセチェンバロChristophe Rousset

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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