
映画『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』
バッハ家のプライベートな曲
グレン・グールドで聴く、バッハの3大組曲、『パルティータ』『フランス組曲』『イギリス組曲』。
次は、『フランス組曲』です。
3大組曲のできた順番は、最初が『イギリス組曲』で、次に『フランス組曲』、最後が『パルティータ』です。
『フランス組曲』の特徴は、他の組曲に比べて、規模は小さく、どこまでも優美なこと。そして演奏も比較的平易といいます。
それは、この曲の成り立ちに由来します。
バッハは1720年に、13年連れ添って4人の子供を成した妻、マリア・バルバラを失くし、1721年に、ソプラノ歌手で20歳のアンナ・マグダレーナと再婚します。
そして翌年、1722年から、新妻アンナのために『クラヴィーア小曲集』という1冊の楽譜帳を編み始めます。
これが有名な『アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集 第1巻』です。
妻アンナのレッスン、または楽しみのために作った楽譜帳で、現在残っているのがその3分の1ほどなのですが、その冒頭に、このフランス組曲全6曲のうち、はじめの5曲が収められているのです。
まさに、アンナへの愛のこもった、またバッハ家の日常の愉しみが垣間見える、きわめてプライベートな曲なのです。
構成は、『パルティータ』や『イギリス組曲』のような冒頭の壮大な前奏曲はなく、アルマンド―クーラント―サラバンド―ジーグという小舞曲の伝統的な組み合わせを軸として、これにメヌエット、エールなどの任意舞曲(ガランテリー)を適宜挿入しています。
〝フランス〟という名前はバッハが名付けたものではなく、後世の人がこの曲にあふれる優雅なフランス趣味の香りから名付けたものです。
前半の3曲が短調、後半の3曲が長調ですが、このアルバムには前半から4曲が収められています。
J.S.Bach :French Suite no.1 in D minor, BWV812
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
プレリュード風の流れるような気品あふれる曲です。
アルマンドのテーマをさらに展開した形です。
しみじみとした情感あふれる曲です。バッハの書いたサラバンドの中でも特に美しいもののひとつといわれています。
これも高貴な香りのする舞曲です。
メヌエットⅠのトリオにあたります。この曲の中で一番忘れがたい、特徴的なテーマです。グールドはまるで二段鍵盤のチェンバロのように、途中でオクターブ移高して音色を変えることまでしています。
第6曲 ジーグ
フランス風序曲冒頭のような付点リズムのフガートで、小品ながら深い表情の曲です。
J.S.Bach :French Suite no.2 in C minor, BWV813
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
情愛こもった、優美で素敵な曲です。
走り回るような、イタリア風の活発なクーラントです。バッハが妻と笑み交わしながら弾いている情景が目に浮かびます。
通常のサラバンドの特徴が見られない、自由な構成の曲になっています。
第4曲 エア
シャンソン風の洒落た小唄です。
ツンとすましたような、粋なメヌエットです。
第6曲 ジーグ
このリズムはフランス舞曲の〝カナリー〟です。短調ながら、活気に富んだ響きが楽しませてくれます。
J.S.Bach :French Suite no.3 in B minor, BWV814
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
バッハの宿命的な調、真っ暗なロ短調ですので、第1番、第2番に比べるとより深く感傷的な雰囲気になります。しかしそれだけに、心の深奥に沁み込んでいくような思いがします。
フランス組曲の中でも特に傑作といわれているクーラントです。躍動感が素晴らしい!
繊細で情緒豊かな曲です。
〝イギリスの〟という意味で、英国からフランスのバレエに取り入れられたといわれる舞曲です。はつらつとした、気品あふれる曲です。
流麗なメヌエットですが、中間部のトリオが元気よく走り回って印象的です。
第6曲 ジーグ
短調ながら、快活なイタリア風のジーグです。その展開は現代的でさえあります。
J.S.Bach :French Suite no.4 in E-flat major, BWV815
演奏:グレン・グールド(ピアノ) Glenn Gould
平均律クラヴィーア曲集第1巻のプレリュードに似た趣きの、アルペッジョが即興的な曲です。
思わず体が動いてしまうような活発で楽しいリズムです。
単純ですが印象的なテーマが、ポツ、ポツとさりげなく奏されていきます。長調のこの曲の中では唯一影のある曲です。
第4曲 ガヴォット
晴朗なのびのびとした感じで始まり、途中から元気よく踊り始めます。
第5曲 エア
明るく元気で、テンポの速い歌です。
短いですが、どこまでも典雅な曲です。
第7曲 ジーグ
ウィットに富んだ、楽しいリズムはユーモラスでさえあり、あのいかめしい肖像のバッハも、こういう曲ではいたずらっぽい笑みを浮かべながら、弾いていたに違いありません。温かい家庭の雰囲気が伝わる曲です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。


にほんブログ村

クラシックランキング