ヘンデル『メサイア』の第1部より、第8曲から第12曲までを聴きます。
イエス降誕のはるか以前に書かれた旧約聖書による、メシア誕生の預言の部分です。
Handel : Messiah HWV56
エマニュエル・アイム指揮ル・コンセール・ダストレ
Emmanuelle Haim & Le Concert D’Astree
見よ、おとめが身ごもって男の子を産む
その子は〝インマヌエル〟と名付けられる
〝神は我々と共におられる〟という意味である
(イザヤ書 7:14, マタイ 1:23)
旧約聖書の有名なメシア預言です。マリアがイエスを処女懐胎するという、キリスト教の根本原理の根拠になっています。インマヌエル、という名の由来を示す部分だけ、新約聖書のマタイ伝から引用し、彼こそイエスである、というキリスト教の立場、解釈を強調しています。
第9曲 アリア(アルト)と合唱
おお、良き知らせをシオンに伝える者よ、高き山に登れ
良き知らせをエルサレムに伝える者よ、力いっぱい声を上げよ
声を上げて、恐れずに、ユダの町々に告げよ
『見よ、あなたがたの神だ!』と
(イザヤ書 40:9)
おお、良き知らせをシオンに伝える者よ、 起きよ、輝け
主の栄光があなたがたの上を照らすのだから
(イザヤ書 60:1)
救い主が処女から生まれるという神秘の預言を、エルサレムの民たちに告げよ、というアルトの明るいアリアに、合唱が続きます。シオンはエルサレムの別名(雅名)で、近代のイスラエルの建国運動も〝シオニズム〟と呼ばれました。
見よ、闇は地を覆い、大いなる暗黒が人々を包んでいる
しかし、あなたがたの上には主が現れ、主の栄光が輝く
諸国の民はあなたたちを照らす光に向かい
諸国の王たちはその輝きに向かって歩むだろう
(イザヤ書 60:2-3)
第11曲 アリア(バス)
闇の中を歩んでいた民は、大いなる光を見た
死の陰の住む者たちの上に、光が輝いた
(イザヤ書 9:1)
救い主が来る、という預言を得ても、現実にはまだユダの民は闇の中にいます。しかし、大いなる預言は、彼らに希望の光をもたらします。バスで歌われる、このレチタティーヴォとアリアは、光と闇の対比を印象深く示します。まるで、深い夜の闇の中で、夜明けの光を待ち望むかのようです。〝朝の来ない夜はない〟という言葉を思い起こします。そして、このアリアのために、次の合唱が聴衆に、朝日のようにまぶしく輝いてみえるのです。
第12曲 合唱
ひとりのみどりごが私たちのために生まれた
ひとりの男の子が私たちに与えられた
その子は、すべての権限を握られる
そしてその名は『驚くべき指導者、力ある神、永遠の父、平和の君』と唱えられる
(イザヤ書 9:6)
『メサイア』の中で、ハレルヤ・コーラスに次いで有名な合唱です。救い主となる赤ちゃんが生まれた喜びを、思う存分明るく、力強く歌い上げた、ヘンデル渾身の作です。旧約聖書でも、メシアは赤ん坊からのスタートなのです。そしていくつもの称号をたてまつられますが、〝ワンダフル〟〝カウンセラー〟というのはなかなか訳すのが難しい語です。でも、高らかに歌われるそれは、頼れる人に出会えたうれしさでいっぱいです。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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