
クロード・ロラン『フォロ・ロマーノの遺跡とカプリス』
オブリガート・クラヴィーアつきのヴァイオリン・ソナタ
前回、バッハのオブリガート・クラヴィーア(チェンバロ)つきのフルート・ソナタをご紹介しましたが、同じコンセプトの曲が、ヴァイオリンとヴィオラ・ダ・ガンバにあります。
バッハは、当時一般的だった通奏低音つきのソナタを、驚くほど書いていません。
当時の証言によると『バッハはチェンバロでそのようなソナタの伴奏をするときも、楽譜に数字しか書いていない右手のパートを、もう一つ楽器があるかのように新たなメロディを生み出していくので、さながら合奏によるコンチェルト(協奏曲)を聴いている思いがした』ということです。
右手パートも演奏者の即興にまかせず、しっかり作曲したのがこれらの作品群です。
無伴奏曲で、一人に二役も三役もやらせたバッハですから、演奏者が二人もいれば、もはや合奏ができるのです。
いずれも、安定した宮廷楽長の地位にあったケーテン時代の作とされています。
ヴァイオリン・ソナタは後世たくさんの作曲家が創りますが、モーツァルトのものは立場が逆で、ヴァイオリン・オブリガートつきのピアノ・ソナタとなっており、ヴァイオリンの方が伴奏という立場でした。ベートーヴェンのものは、ヴァイオリンとピアノが対等に対決するようです。
これに対し、バッハのものは、独奏ヴァイオリンと、チェンバロの右手、左手の3者の調和、という趣きで、典雅の極致です。
6曲あり、それぞれに個性があって、宝箱をひとつひとつ開ける思いがします。
バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第1番 ロ短調 BWV1014
J.S.Bach : Sonata for Violin & Cembalo no.1 in H minor, BWV1014
演奏:イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)、クリスティアン・ベズイデンホウト(チェンバロ)
Isabelle Faust & Kristian Bezuidenhout
第1楽章 アダージョ
順番通り、6曲のうち、一番最初に書かれたといわれています。クラヴィーアが哀しみをたたえた高貴な旋律を奏でるうち、深淵から湧き出るようにヴァイオリンが登場し、さらに美しくも物悲しいアリアを歌います。バッハの宿命的な調性、ロ短調に乗って、瞑想的な雰囲気を醸す深い音楽です。この曲を作曲した頃、1719年にバッハは4男を亡くしているので、その悲しみが反映されている、という説もあります。翌年、バッハはさらなる不幸に見舞われ、それは4番、5番に映されているといわれていますが…。
第2楽章 アレグロ
前楽章に続き、哀しみにあふれた楽章ですが、情熱的で激しさをもっています。クラヴィーアがフーガのようにヴァイオリンを追いかけていきます。
第3楽章 アンダンテ
穏やかな長調に移り、哀しみにようやく慰めが与えられるかのようです。3声部がそれぞれにのびやかに歌うさまを聴いていると、心が休まります。室内楽ならではの癒しがここにあります。
第4楽章 アレグロ
再び激しく情熱的な楽章になります。フーガの要素と、コンチェルトの要素が組み合わされた終曲です。ふたりで演奏しているとは思えない充実ぶりです。
バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第2番 イ長調 BWV1015
J.S.Bach : Sonata for Violin & Cembalo no.2 in A major, BWV1015
第1楽章 テンポ指定なし
ヴァイオリンが甘いため息のように始め、クラヴィーアがゆっくりとからんでいきます。テンポの指定がありませんが、冒頭にドルチェ(甘く)と記載があり、ファウストはラルゴで演奏しています。静かで穏やかな空間が広がります。
第2楽章 アレグロ
ヴァイオリンが颯爽とした歌を、天に届けと言わんばかりに高らかに歌い始めますが、クラヴィーアも負けていません。ヴァイオリンは、ヴィヴァルディや、ブランデンブルク協奏曲第4番を思わせる超絶技巧を披露し、まさにたったふたりで演ずるコンチェルトです。
第3楽章 アンダンテ・ウン・ポーコ
クラヴィーアの左手が、特徴的なリズムを刻み、その上にヴァイオリンと右手がカノンのようにメロディの追いかけっこをします。旋律はどこか物悲しく、心に沁み入ります。
第4楽章 プレスト
楽しい、むしろ俗っぽいメロディが、3声部で模倣されていきます。思わず口ずさみたくなる、踊るような楽想です。
次回は第4番、第5番です。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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