孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

新妻がたたえる、神の栄光。モーツァルト『大ミサ曲 ハ短調 K.427「第2章 グロリア」』

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新妻がたたえる、神の栄光

今回はモーツァルトハ短調ミサ』第2章「グロリア」です。

神の栄光を讃える章「栄光の賛歌」で、どんなミサ曲でもいちばん派手に華やかに書かれます。

ミサ通常文においては第3章クレドに次ぐ長文です。

短いミサではスラスラと逐語的に歌われますが、この曲では細かく区切って8曲にも分かれています。

この曲が〝大ミサ〟と呼ばれるゆえんです。

モーツァルトの作曲は実に手の込んだ、丁寧な作りで、オラトリオのように、物語を1ページずつめくるような思いがします。

モーツァルト『ミサ曲 ハ短調 K.427〝グレート〟』 

Mozart:Great Mass in C minor , K.427

演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

合唱:モンテヴェルディ合唱団

John Eliot Gardiner & English Baroque Soloists , Monteverdi Choir 

独唱:

シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)

ダイアナ・モンタギュー(ソプラノ)

アンソニー・ロルフ・ジョンソン(テノール

コルネリウス・ハウプトマン(バス)

第2曲 グロリア Gloria

天には栄光、神にあれ

地には平安、善意の人にあれ

Gloria in excelsis Deo.

Et in terra pax hominibus bonae voluntatis.

グレゴリオ聖歌の先唱で導入され、壮大な4部合唱で神の栄光を讃えます。

有名な『グロリア・イン・エクセスシス・デオ』の言葉です。

深沈とした前曲「キリエ」が、人類の誕生と混沌とした原始の時代とすれば、この「グロリア」は、ピラミッドが築かれ古代文明が花開いた、というイメージを受けます。

〝地には平安〟の部分はしっとりと落ち着いた合唱で、天の華やかさとの対照が見事です。

第3曲 ラウダムス・テ Laudamus te

我ら主をたたえ

主をあがめ

主を拝礼し

主を讃美する

Laudamus te.

Benedicimus te.

Adoramus te.

Glorificamus te.

コロラトゥーラ・ソプラノのための独唱で、まさにコンスタンツェのための曲です。

ほとんどオペラのアリアで、ワクワクするような伴奏は、まさに夫の愛そのものです。

優しい夫に支えられながら、神を讃える歌を聖堂の高い天井に届けとばかりに響かせる。

それはキリスト教徒にとってこの上ない幸せでしょう。

バロック以来、教会音楽はどんどん華美になってゆき、18世紀にはこの曲のように、ほとんど世俗のオペラか?と思われるような曲調になっていました。

モーツァルトが生まれる7年前、1749年にローマ教皇ベネディクトゥス14世(在位1740-1758)が、典礼に伴う音楽がオペラ風な華美にはしることを厳に戒める回勅を発していましたが、あまり効果はなかったのです。

教皇が苦々しく思ったように、音楽を聴くことは人々にとってすでに教会に来る楽しみとして定着してしまっていたこともありますが、何より、美しい音楽で神の栄光を讃えることは、誰にも不信心なこととは思えなかったからでしょう。

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教皇ベネディクトゥス14世

ちなみに、2013年に高齢を理由に生前退位して世界を驚かせたのは、同じ名前のベネディクトゥス16世です。生前退位は719年ぶりでした。退位を表明した2013年2月11日、バチカンサン・ピエトロ寺院に雷が落ちて、これも話題になりました。

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2013年2月11日、サン・ピエトロ寺院に落雷
第4曲 グラティアス Gratias

主の栄光の大いなるがために

つつしみて感謝する

Gratias agimus tibi propter magnam gloriam tuam.

前曲の華々しさに水をかけるような、強烈な不協和音が連続する、緊迫感に満ちた5部合唱です。

あまりに思い切った大胆かつ斬新な演出に、当時の人はびっくりしたのではないでしょうか。 

前曲のコンスタンツェの歌の輝かしさを引き立てるためかもしれません。

第5曲 ドミネ Domine

主なる神、天の王

全能の父なる神

おんひとり子なる主イエス・キリスト

主なる神、神の子羊、父の御子

Domine deus, rex caelestis, deus pater omnipotens.

Domine fili unigenite, Jesu Christe.

Domine deus, agnus dei, filius patris.

弦のみの伴奏によるソプラノ2重唱で、美しい女声がからみあう、切ないばかりの美しさです。バッハやヘンデルを思わせる古風な趣きで、斬新な楽章と古典的な楽章を組み合わせる、モーツァルトの創意工夫といえます。

第6曲 クイ・トリス Qui tollis 

主は世の罪を除きたまうにより

我らをあわれみたまえ

主は世の罪を除きたまうにより

我らの願いを聴き入れたまえ

主は父の右に座したまうにより

我らをあわれみたまえ

Qui tollis peccata mundi, miserere nobis.

Qui tollis peccata mundi, suscipe deprecationem nostram.

Qui sedes ad dexteram patris, miserere nobis.

ト短調の悲壮な8声の二重合唱です。執拗な低音の付点リズムはイエスの十字架の重みを象徴し、その上に壮大で感動的なコーラスが展開します。

世の罪を除くための、ゴルゴダの丘への苦しい歩みを思わずにいられません。

時折みせる、合唱のみの消え入るような部分が胸に迫ります。

第7曲 クオニアム Quoniam

そは唯一の聖

唯一の主

唯一の至高者にまします、

Quoniam tu solus sanctus, Tu solus dominus.
Tu solus altissimus,

文中にある「聖」「主」「至高者」という3つの要素を示すため、ソプラノふたりとテノールの3人で歌う三重唱になります。

ホ短調の哀調を帯びていますが、オーケストラのリトルネッロに囲まれ、3人の歌がからみあう歌は、不思議とリズミカルです。 

第8曲 ジェズ・クリステ

イエス・キリスト

Jesu Christe.

前曲の歌詞を受け継ぎ、唯一の「聖」「主」「至高者」である存在、イエスの御名のみに音楽をつけた楽章ですが、音楽的には、次の最終曲の序奏になっています。

ティンパニも重々しく、全合唱により歌われます。

第9曲 クム・サンクト・スピリトゥ Cum Sancto spiritu

主は聖霊とともに

神なる父の光栄にましましたまうなり

アーメン

Cum Sancto spiritu, in gloria dei patris, Amen.

 「グロリア」章の最終曲で、ここは多声曲にして締めくくるのが伝統ですが、モーツァルトもその古式に則り、厳格な対位法を使って、バッハ、ヘンデルに劣らないフーガに仕上げています。

二重フーガ、ストレッタ、転回フーガなどの技法を駆使し、音の大伽藍を築き上げているのです。

 

次回は、信仰宣言『クレド』と感謝の賛歌『サンクトゥス』で、このミサの締めくくりとなります。

 


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