
マルク=アントワーヌ・シャルパンティエ(1643-1704)
今夜はクリスマス・イブです。フランスのバロック音楽を聴いてきましたが、まさにピッタリの曲があります。
それは、『テ・デウム』の話で取り上げた、マルク=アントワーヌ(マルカントワーヌ)・シャルパンティエ(1643-1704)の『真夜中のミサ』です。
シャルパンティエの生い立ちはよく分かっていませんが、若い頃にイタリアに行き、そこで音楽を学んだようです。
パリに戻ってから、ギーズ公爵夫人マリーの楽長になり、数々の宗教曲を作って才能を発揮しました。
名声が高まってくると、当時の楽壇を支配していたリュリに嫉妬され、オペラ座や宮廷への出入りを徹底して妨害され、音楽アカデミーの会員にもなることができませんでした。
リュリが世を去ってからは、オペラを上演することができましたが、ヴェルサイユ宮廷とはついに無縁のままでした。
活躍の場はパリの教会で、1680年代からはイエズス会の保護を受け、パリ唯一のバロック様式の教会、サン・ポール・サン・ルイ教会の楽長に就任、数々の宗教曲を生み出しました。
『真夜中のミサ』はこの頃の作品です。

サント・シャペル
光の洪水、サント・シャペル
1698年にはサント・シャペルの楽長となりましが、これはパリの音楽界では最高の地位でした。
サント・シャペルは、十字軍で活躍したルイ聖王(ルイ9世)が、自ら集めた聖遺物、イエスが処刑されたときに被せられたという茨の冠をはじめ、十字架のかけら、イエスの血などを収めるために建造した礼拝堂です。
聖王は、遠征の際にこれらを強奪せず、大金を払って購入しました。
しかし、これらの『聖遺物』のほとんどは眉唾もので、中世には聖遺物製作の〝職人〟までいたそうです。
各地にある〝イエスの架けられた十字架のかけら〟を集めたら、家が一軒建てられるんじゃないか、といわれています。それも敬虔な信仰心の現れではあるのですが。
サント・シャペルは盛期ゴシック建築の代表作で、その豪華なステンドグラスが有名ですが、フランス革命による荒廃が激しく、19世紀にかなりの修復を受けて、天井や壁の彩色はそのときのものです。
それでも、パリの世界遺産の中でも白眉で、ここで鳴り響いたシャルパンティエの音楽に思いを馳せずにはいられません。
当時のサント・シャペルの礼拝音楽はパリで最高とされ、3人のソプラノ、2人のアルト、3人のカウンターテナー、3人のテノール、1人のバリトン、4人のバス、2人の少年聖歌隊員、1人のオルガン奏者を擁し、これは王の音楽隊に匹敵する規模で、ヴェルサイユで歌手が足りないときは応援に行ったそうです。
シャルパンティエは、宮廷の王族ではなく、主にパリの市民を相手にした教会音楽で活躍したというわけです。
それだけに、彼の音楽は、素朴で親しみやすく、今もフランス盛期バロックの代表的作曲家とされています。
『真夜中のミサ』は、降誕祭前夜のミサ、つまりクリスマス・イブの深夜に行われるミサのための音楽です。
シャルパンティエの代表作ですが、その特徴は、ノエル、つまりクリスマス用の讃美歌(英国ではクリスマス・キャロル)を多く流用していることです。
そのため、そのメロディは親しみやすく、ミサ曲にありがちな荘厳さや威圧感がなく、クリスマスのお祝い気分に満ちているのです。
M.A.Charpentier:Messe de Minuit H.9
マルク・ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル
Marc Minkowski & Les Musiciens du Louvre
第1曲 キリエ
1曲目ということで、あえて華やかさは控え、ノエルから採られた素朴なメロディをコーラスが、リコーダーやオルガンの装飾のみで『キリエ・エレイソン(主よ、憐れみたまえ)』と歌います。
第2曲 クリステ
テノールが先導し、『クリステ・エレイソン(キリストよ、憐れみたまえ)』を歌い、続けて再び、第1曲を展開させた曲で『キリエ・エレイソン』をコーラスが歌います。
第3曲 グロリア
『栄光の賛歌』ですが、ふつうの曲では思いっきり派手にするところ、しっとりと落ち着いたコーラスで始まります。
やがて、次の節ではオーケストラが活躍し始め、男声の独唱とコーラスが綾のようにからんで、天国的な華やかさになっていきます。
後半では女声が神の栄光を讃え、コーラスの壮大な『アーメン』で締めくくられます。
『信仰宣言』ですが、このミサで一番長い曲で、深い愁いを含んだコーラスで始まります。
やがて、跳ねるような舞踏のリズムのノエルになりますが、この旋律はとても有名で、当時から親しまれたものでした。
続いて、聖夜の主役、処女マリアに言及されるところでは、再び落ち着いた深い音楽になります。
続いて、冒頭キリエのノエルが回帰して、厳粛な感じで十字架での受難に言及されますが、復活の箇所では、栄光と奇跡を讃える華やかな舞曲のリズムに。
そして、永遠の命と救いを求める最後の締めくくりでは、どこまでも美しく、祈りの音楽が天に届けとばかりに奏でられます。
『感謝の賛歌』ですが、サンクトゥスはこれも当時の人に親しみのあるノエルからの引用で、会衆も一緒に口ずさむことができたでしょう。
ベネディクトゥスでは、独唱のからみの美しさが素晴らしいです。
第6曲 アニュス・デイ
『平和の賛歌』は、喜びに満ちた、舞曲のリズムのノエルです。聖夜の奇蹟と、クリスマス到来の喜びがあふれんばかりのうちに、曲は締めくくられるのです。
パリの人々は、このイブの真夜中にミサを聴いて、感謝と希望を胸に、それぞれの家路についたことでしょう。
『真夜中のミサ』はノエルをつなぎ合わせたものですが、もちろん、シャルパンティエは数々のノエルを作曲しています。
それは声楽付きのものと器楽のみのものがありますが、フランスのクリスマス気分を思う存分味わわせてくれますので、ここで何曲か取り上げておきます。
ひとつひとつ、プレゼントの箱を開けるように聴いていただけたらと思います。
演奏:ケヴィン・マロン指揮アラティーア・アンサンブル
Kevin Mallon & Aradia Ensemble
ノエル:真夜中に彼らは起きた
心洗われるようなアカペラのソプラノの美声が夜の町に沁みとおります。やがて、器楽とコーラスが聖夜の奇蹟を喜ばしく歌い上げます。
ノエル:来るクリスマスに
轟くティンパニのリズムの乗って、救世主の降誕を告げる器楽のみのノエルです。
ノエル:陽気な羊飼いはどこに行くのか
『真夜中のミサ』で引用されたノエルで、パーカッションの華やかさがクリスマス気分を盛り上げます。
ノエル:ヨセフは結婚した
『真夜中のミサ』のキリエに使われたノエルです。降誕の物語が、器楽のみでヨセフの結婚から紡がれていきます。
ノエル:常に望む汝
シャルパンティエのノエルの中で、最も親しまれている器楽曲です。
喜びに満ち溢れ、聴くだけで幸せいっぱいになる音楽です。
それでは、皆さまよいクリスマスを!
www.classic-suganne.com
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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