孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

オペラで音楽の数学的法則を解き明かす!50歳からの挑戦。ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』①(序曲)~ベルばら音楽(22)

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ルネ・デカルト(1596-1650)

哲学から始まった科学

フランスを代表するオペラ作曲家、ジャン=フィリップ・ラモー(1682-1764)ですが、最初のオペラを書いたのはなんと50歳のときでした。

それまでの作曲といえば、これまで取り上げたクラヴサンと、いくつかの小品だけです。

でも、それは単に本業であるオルガニストに専念していたから、というわけではなく、それまでのラモーの人生は作曲ではなく、音楽理論の研究に費やされてきたのです。

ルネサンス以降、ヨーロッパでは、自然や宇宙の中に法則を見つけ、理論化する〝科学〟が発展してきました。

自然現象を〝神の奇蹟〟〝神秘〟でかたづけるのではなく、理性の光で、むしろ神の御業を解明しよう、というわけです。

ガリレオ・ガリレイニュートンらがそのリーダーで、その理念は哲学者のデカルトが指し示したのです。

我思う、ゆえに我あり、という言葉で。

音楽の神秘を数学で解き明かす試み

そして、啓蒙思想が隆盛となり、世界でヨーロッパだけが新しい時代、近代へと舵を切ったのが、ちょうどラモーの生涯と重なります。

ラモーは、音と音が混じり合うと、快い響きと、不快な響きに分かれる、この不思議な現象に自然の法則を感じ、この謎を解明し、理論として示すことに生涯をかけたのです。

その考えの根底には、デカルトの懐疑的批判精神が流れていました。

そして1722年に著した有名な『和声論』をはじめとした数々の著作でそれを論じました。

和声のことを〝ハーモニー〟と呼ぶように定義づけられたのは、ラモーによります。

ラモーは、音楽の数学的なしくみに、偉大なる自然の法則を見出しました。

最後には〝全ての自然界の法則は音楽に基づく〟とまで飛躍してしまい、多くの反論を巻き起こし、果てしない論争に身を委ねつつ生涯を終えるのです。

そして、ラモーの音楽は、自らの音楽理論の正しさを証明するために作られたのです。

その音楽が人々に感動を与えるほど、自分の考えが正しい、ということになるわけです。

失敗したら違約金⁉︎

ラモーが作曲に慎重だった理由が、またオペラにこだわった理由が、ここにあります。

50歳に至るまでは、狭い部屋で、数人を相手にしか聴かせられない、か細いクラヴサンで実験を繰り返してきて、満を持し、大劇場で大観衆に訴えることができるオペラに挑戦した、ということです。

その記念すべき第1作が、今回から取り上げる、この『イポリートとアリシー』なのです。

もちろん、オペラを制作できたのは、徴税請負人ラ・ププリニエールの後援と、満足できる台本作家と出会うことができた幸運のおかげ。

台本作者は、当時70歳の老練なる詩人ペルグランでした。

当時、既に著名であったペルグランは、この遅咲きの作曲家の腕を疑い、なかなか仕事を引き受けませんでした。

しぶしぶ受けるにあたり、もしオペラが当たらなかったら、500フランの違約金を払うようラモーに誓約書を書かせた上で、台本を作りました。

紀里谷監督が映画の〝完成保証〟をしたようなものです。

しかし、リハーサルを聴いていたペルグランは、途中で立ち上がり、『これほどの美しい音楽を作曲されたのですから、もう心配は要りません』と叫んで、皆の前で誓約書を破り捨てた、ということです。

オペラ10曲分の音楽が詰まっている

でも、ププリニエール邸での試演を経て、1733年10月1日に王立音楽アカデミーオペラ座で初演された本作は、大変な賛否両論を巻き起こしました。

リュリが確立した、古典的均整がとれて、抑制の効いたフランス・オペラに慣れた聴衆は、ラモーの音楽の、聴き慣れないハーモニーや大胆な転調に面食らいました。

耳をふさいだ、というのが近いでしょう。

たちまち〝繊細な耳を破壊する〟〝フランスらしくない〟〝暴力的な音楽〟といった批判が巻き起こり、ラモーを失望させました。

そもそもが、オーケストラも歌手たちも、ラモーの複雑な音楽の演奏を拒否しまくり、たくさんのカットを余儀なくされての上演でした。

しかし、新しい芸術は、必ずこのような批判を食らうものです。

このオペラは、新しいフランス・オペラの誕生を告げる、金字塔となりました。

オペラ10曲分の音楽が詰まっているといわれ、ラモーは、初作でいきなり頂点を極めたと言えます。

この後のオペラも、様々な大胆な試みに満ち、魅力にあふれていますが、これほどドラマチックではありません。

ではまず、序曲から聴きましょう。

ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』

Jean-Philippe Rameau:Hippolyte et Aricie

演奏:ウィリアム・クリスティ指揮 レザール・フロリサン William Christie & Les Arts Florissants

序曲

リュリ以来のフランス風序曲の伝統に従って作られています。

悲劇のはじまりにふさわしい、荘重な付点リズムの厳しいパッセージです。

2部形式の後半は、たたみかけるような激しい八分音符の嵐となります。

 

こちらは、エマニュエル・ダストレ指揮ル・コンセール・ダストレによる2012年パリ・オペラ座での公演の序曲です。


Hippolyte et Aricie - Ouverture

 

次回は、幕が開き、プロローグです。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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