初めての独り暮らし
前回ご紹介した、コレッリのソナタ、リコーダー版の第11曲です。
この曲には、私が初めて独り暮らしを始めたときの思い出があり、格別な曲になります。まぁ、たいした思い出でもないのですが、つづらせてください。
25年前、新入社員として実家の多摩から都内の神田の会社に通い始めました。
しかし、多摩は東京都といっても郊外なので、通勤時間はトータルで2時間近く、しかも猛ラッシュ。吊り革を確保できれば本でも読めるのですが、それも無理なので、ただただ、新宿まで1時間近く、人の波に身をゆだねるしかありません。当時はスマホどころかウォークマンもないので、気をまぎらわすすべもなく。周囲の迷惑を気にせず新聞を広げては折って読むオッサンもいましたが、サラリーマン初心者の私にはそんな度胸もなく。
しかも、毎日22時以上の残業で、夜遅く帰ってもすぐ翌朝また同じ痛勤地獄が待っています。
だんだんと帰宅するのがおっくうになり、週に2~3回は会社の前のカプセルホテルに泊まっていました。
半年くらい経って、それなら部屋でも借りた方がマシ、と思い立ち、新宿から2駅の幡ヶ谷で独り暮らしを始めました。
住宅手当はもらえませんので、出来る限り安い部屋を、ということで13㎡の1K。
ふつう下駄箱があるような位置に電子レンジがあるような狭い部屋でした。
私が独り暮らしを始めたと聞いて遊びに来た女友達も、狭いよ、とは予告してたのですが、入ったらすぐベッドしかないので、案の定たじろいでいました。笑
しかし、何といっても初めての自分の城です。
マンションを出るとすぐ、六号通り商店街です。
実家は丘の上の住宅地で、店どころか自動販売機さえ無いので、こんな近くに人々が行き交い、お店がたくさんあるのは本当に新鮮でした。
部屋のバスタブは膝を折り曲げて入っても肩まで浸かれないほど小さいので、近くの銭湯によく行きました。
そして上がるとすぐ部屋に寝転んでビール。まさに至福の時。
社会人って最高!って初めて思いました。
それのどこがクラシックと関係あるのか?ということですが、これからです。
部屋に固定電話を引きました。
当時は「加入権」が72,000円もして、資産価値まで認められていたのです。
携帯電話などは、ノラが『しもしも~』とやっているような段階です。
自分の電話番号。それがどんなにうれしかったことか。
そして、留守電のBGMを、お気に入りのコレッリの曲にしたのです。
〝私のテーマ曲〟として。
でも、当時としてもクラシックを使うなんて変人でしたが。笑
その曲が作品5の11の『アレグロ』でした。
Corelli : Sonata Es-dur , OP.5, Nr.11
演奏:フランス・ブリュッヘン(ブロックフレーテ)、アンナー・ビルスマ(バロック・チェロ)、グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)
Frans Bruggen , Anner Bylsma , Gustav Leonhargt
第1楽章 プレリュード(アダージョ)
ゆっくりとした癒しの曲ですが、やや哀調も帯びた前奏曲です。
これが〝スガンヌのテーマ〟です。笑
元気そのもの、純真無垢な子供がはしゃぐようなメロディです。それに合わせるチェロの通奏低音が絶妙で、軽いこの曲に深みを与えています。オリジナルのヴァイオリンでの演奏もよいのですが、何といってもリコーダーの魅力がこれ以上引き出される曲、演奏は無いでしょう。
でも電話をかけて、いきなりこの曲が始まったら面食らうでしょうね。若気の至りの黒歴史です。汗
しずかに一息ついた後、さわやかで屈託のない歌になります。
第4楽章 ガヴォット
さっと始まり、さっと終わる。クールな終曲です。
あまり曲とつながりのない、しかも誰にでもあるような、何の変哲もない思い出を語ってしまいましたが、音楽というのは、〝人生のあの頃〟をまざまざと思い出させくれるのが、ありがたいですね。
特別なことなど何もない平凡な過去でも、自分にとっては大切な時間だったかも、と時々振り返ると、今の時間も大事にしなければ、と思えるような気がします。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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