頭スッキリしたいとき
バッハについては、結婚式定番曲のところで宗教曲2曲、世俗曲1曲を取り上げましたが、この2ジャンルそれぞれにバッハの個性が出ています。
やはりバッハといえば、まずは荘厳で感動的な教会音楽が思い浮かびますが、純粋に音楽を楽しむために作られた、世俗曲の魅力もたまりません。
以前、ベートーヴェンの『バッハはバッハ(小川)ではない。メール(大海)だ』という有名な言葉を挙げました。
それまでのヨーロッパ各地で発展してきた音楽が、バッハのところに全て流れ込み、偉大な海になっている、ということです。
しかし、確かに形式や技術などはその通りなのですが、バッハの音楽的個性は、それまでのどの音楽家とも似ても似つかない、強烈なものです。
クラシックを聴き込み、主な作曲家の違いが分かるような人でも、知らない曲を聞かされて、どちらがモーツァルトでどちらがハイドンか、と言われたらなかなか難しいのではないかと思いますが、バッハはすぐ聴き分けられるのではないでしょうか。
モーツァルトのところでは、音楽と社会の関係の話が多くなりますが、バッハの音楽は時代を超越しているようなところがあり、特にクラシックが好きでない人でも、いい、と言う人が多いです。
特に世俗曲には、現代的な、斬新なものが多くあります。
バッハの音楽は、「メロディ」「ハーモニー」「リズム」の三位一体といわれますが、とくにリズム感が強烈です。
そこが、現代音楽にも通じているのではと。
その代表が、チェンバロ・コンチェルトではないか、と思っています。
モーツァルトのピアノ・コンチェルトをたくさんご紹介してきましたが、その先駆、ハシリにあたります。
私のお気に入りの楽器、チェンバロの典雅で直接的な響きが、直截的なオケとからんで、頭にジンジンきます。
私にとっては、モーツァルトやコレッリは、家でくつろぎながら聴くのにふさわしい〝オフ〟の音楽なのですが、バッハは、よし、これからやるぞ!という気にさせる〝オン〟の音楽なのです。
眠たいとき、ボーっとしてしまうとき、頭がスッキリするコーヒーの効用です。笑
2曲ずつ、4曲を2回にわたってご紹介します。
バッハ『チェンバロ協奏曲 第4番 イ長調 BWV1055』
Concerto for Harpsichord , Strings ,and Continuo , in A major BWV1055
演奏:トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
Trevor Pinnock & The English Concert
はい、朝ですよ、いわれているような、目覚めのさわやかな音楽です。チェンバロ・ソロが朝露のようにキラキラ輝いています。昨夜の雨が上がって快晴、さあお出かけ日和、という気分です。
第2楽章 ラルゲット
深いため息のようなオケの嘆きから入りますが、チェンバロはそれを慰めているように優しく語ります。だいじょうぶ、元気だそうよ、と。
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
一転、オケの颯爽としたダンスが始まります。その合間のチェンバロの語りこそ、現代音楽かと思うほど素敵です。まるで、ダンスの最中にプロポーズをしているかのようです。これから幸せになろうね、と。私がバッハで一番好きな楽章です。何度聴いてもハッピーな気分になります。
バッハ『チェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV1056』
Concerto for Harpsichord , Strings ,and Continuo , in F minor BWV1056
演奏:トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート
Trevor Pinnock & The English Concert
哀調を帯びた音楽ですが、決して深刻でなく、高貴な気品をたたえています。居ずまいを正し、これから真剣な場に臨む、というような雰囲気です。
第2楽章 ラルゴ
有名な曲ですので、聞いたことはあるけど名前は知らない、という人も多いのではないでしょうか。弦のピチカートにのって静かに語るチェンバロ・ソロは、美の極致です。いったい、何を語りかけているのでしょうか。
第3楽章 プレスト
厳しく、クールな楽章です。チェンバロは縦横無尽に音符を散りばめて、颯爽と終わります。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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