マルチェリーナとの言い争いには勝ったものの、スザンナはムカつきが収まらず、プンプンしながらひとり仕事をしています。
そこに、ケルビーノが飛び込んできます。
ケルビーノは伯爵の小姓で、思春期の少年。小柄な女性が男装して演じるズボン役です。
(レチタティーヴォ)
ケルビーノ
スザンナ、君かい?
スザンナ
そうよ、何か用?
ケルビーノ
大変なことになったんだよ~
スザンナ
どうしたの?
ケルビーノ
きのう、バルバリーナとふたりでいるところを伯爵に見つかって、クビにされちゃったんだ
奥方さまに取りなしていただかないと、君にも逢えなくなっちゃうんだよ!
僕のスザンナ!
スザンナ
私に逢えなくなる?
それはどういたしまして
じゃあ、あんたはもう奥方さまに対して、ひそかにため息をつくのは止めたってわけ?
ケルビーノ
ああ、あの方は恐れ多くて・・・
君はいいなぁ、いつでもあの方に逢えるし、朝は服をお着せして、夜にはお脱がせし、ピンやリボンをほどいて・・・
もしぼくが君の役ならなぁ…。
スザンナ(からかって)
これがあのお美しい方のおリボンと夜のお帽子でございますわよ~
ケルビーノ(スザンナの手からリボンを奪い取る)
もらった!
スザンナ
あっ!返して!
ケルビーノ(逃げ回る)
ああ、いとしく、美しく、幸せなリボン! 命かけても返さないよ!
スザンナ
ちょっと、いい加減にして!
ケルビーノ
まあ、そう怒らないで。代わりにぼくの作ったこの歌をあげるから。
スザンナ
これをどうしろと?
ケルビーノ
奥方さまに読んで差し上げて
君も読んで
それから、バルバリーナにも、マルチェリーナにも、お屋敷中の女の人ぜんぶに読んであげて!
スザンナ
かわいそうなケルビーノ、あんた気が変なのね?
第6曲 ケルビーノのアリア『自分で自分がわからない』
ケルビーノ
もうぼくは、自分で自分が分からない
燃えたかと思うと、すぐ冷めたり、女を見るたびに顔が赤くなり、女を見るたびに胸が高鳴る
恋とか、愛とかいう言葉を聞いただけで胸が騒ぎ、自分でもわからない想いが胸を焦がす
覚めれば恋を語り、寝ては夢に恋を語る
水にも、影にも、山にも、花にも、草にも、泉にも、そして、ぼくの言葉を運んでくれるこだまや、空気や、風にも・・・
だれも聞いてくれない時でも、ぼくは独りで恋を語る
思春期まっさかりのケルビーノは、女性の魅力に敏感になり、恋に恋して、自分を受け入れてくれるなら誰でもいい、という状態です。このアリアは、そんな半分錯乱したような少年の心を見事に歌っています。第2幕で歌われる、有名な『恋とはどんなものかしら』は、伯爵夫人の前でかしこまって歌うのですが、スザンナの前では自分をさらけ出しているのです。
スザンナは、やれやれ、といった調子で聴いてあげています。
ところが歌が終わったとたん、ケルビーノは『もうダメだ!』と叫びます。
伯爵が突然部屋に入ってきたのです。
さてどうなるか、それは次回に。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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