孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

【曲解説】待ちに待った新酒解禁!ハイドン:オラトリオ『四季』より第3部『秋』第27~28曲〝ワイン祭り〟

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ピーテル・ブリューゲル『聖マルティンのワイン祭り』

マルティンの祝日とは

ハイドンのオラトリオ『四季』の10回目、第3部『秋』のフィナーレです。

『秋』の部は、収穫から始まり、恋、狩りと場面が次々と転換し、最後は盛大な宴会で締めくくられます。

収穫したブドウからワインの新酒ができあがり、村人がこぞって樽やかめを開け、飲めや歌えの新酒祭りとなります。

新酒のワインを祝うのはマルティンの祝日(11月11日)とされていました。

今のボジョレーヌーボー解禁のルーツですが、今では解禁日は11月の第3木曜と決まっていますね。

マルティン(マルティヌス)は、古代ローマの兵士でした。

あるとき、ガリア(今のフランス)のアミアンで、冬に半裸で震えている物乞いを見て気の毒に思い、自分のマントを半分引き裂いて与えました。

この物乞いはイエス・キリストの化身で、それをきっかけに伝道の道に入ったといいます。

各地で伝道のかたわら、貧しい人を助けたり、病気を治したりしたので、死後聖人に列せられました。

殉教していないのに列聖した最初の人です。

ロワールのブドウ栽培を始めた人という伝説もあり、ワインの守護聖人ともされたので、その記念祝日である11月11日が収穫祭となったということですが、それは後世の付会と考えられます。

ドイツのプロテスタントでは、宗教改革を起こしたマルティン・ルターを記念する日ともなりました。

そもそもルターは、祝日前日の11月10日に生まれたのでマルティンと名付けられたのですが。

ともあれ、この日は冬の始まりとされ、迫りくる陰鬱な冬を前に、村人たちは最後の饗宴を、大いに羽目を外しながら、心ゆくまで楽しみ、ハイドンはそんな場面をすばらしい音楽にしたのです。

まさに『秋』にふさわしいフィナーレです。

頭を抱える老巨匠

しかし、作曲にあたっては、またしてもハイドンは、ヴァン・スヴィーテン男爵の書いた歌詞を見て、頭を抱えました。

ばんざい、ばんざい!ワイン、ばんざーい!…

…こんな歌詞にどんな曲をつけろというのだ?

しかも熱狂的に盛り上がるように、だと?

『四季』は総じて老巨匠に壮絶な産みの苦しみを与えましたが、中でも苦吟したのがこの場面でした。

しかも男爵は、宴会を表した音楽の前例として、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』第1幕のフィナーレを持ち出し、そこで使われた手法、すなわちオーケストラをいくつかのグループに分け、異なった種類のダンス曲を同時に演奏する、というのはどうか、と提案したのです。

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後輩のやった手法の二番煎じをやれ、だと…?

しかもたいしたドラマの設定もないのに…?

ハイドンは断固としてこれを退け、モティーフを反復させながら盛り上げてゆく独自の手法を使いました。

これは、ハイドンがロンドンで作ったシンフォニー第100番『軍隊』の、大いに盛り上がるフィナーレを思わせます。

ハイドンはあくまでも、自分のやり方にこだわり、そして成功させました。まさに巨匠の面目躍如といえます。

では、ワイン片手に、楽しい村祭りにお邪魔するとしましょう。

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ハイドン:オラトリオ『四季』第3部『秋』

Joseph Haydn:Die Jahreszaiten Hob.XXI:3

演奏:ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団

John Eliot Gardiner & The English Baroque Soloists, The Monteverdi Choir

ソプラノ(ハンネ):バーバラ・ボニー Barbara Bonney

テノール(ルーカス):アントニー・ロルフ=ジョンソン Anthony Rolfe Johnson

バス(シモン):アンドレアス・シュミット Andreas schmidt

第27曲 レツィタティー

ハンネ

ぶどうの樹には、いま

美しいふさがみずみずしく輝いて

ツグミに向かって

早くついばんで、と

楽しげに呼びかけています

シモン

桶や樽はもう

丘の上に運んである

そして、どの小屋からも

たのしい仕事へと

人々が元気よく出かけてゆく

ハンネ

見て、丘の上に

みんなが集まっているわ!

聞いて、うれしそうなざわめきが

あちらこちらから伝わってきます!

ルーカス

朝から晩まで

笑いさざめくおしゃべりが仕事を助け

発酵するぶどうの果汁が

うれしい気持ちを愉快な笑いに高めてゆく

ハンネ、ルーカス、シモンたちが、ぶどう畑の収穫の様子を語ります。みずみずしいぶどうの房は摘まれ、桶に入れられ、裸足の村人たちが足で踏み潰します。流れ出るぶどうジュースを樽に詰め、一次発酵させます。1、2ヵ月もすれば、新酒の出来上がりです。樽や瓶に詰め替えての二次発酵や熟成は、村で消費されるワインではあまり行われなかったようです。

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ロレンツォ・バルトリーニ『ぶどう踏みの子』
第28曲 村人たちの合唱

一同

ばんざい!ばんざーい!

ワインだぞ

樽いっぱいにあるぞ

さあ、愉快にやろうぜ

ばんざい!ばんざーい!

声を限りに叫ぼう

農夫たち

さあ飲もうぜ!

飲もうぜ、兄弟!

愉快にやろう!

農婦たち

さあ歌いましょう!

みんなで歌いましょう!

愉快にやりましょう!

一同

ばんざい!ばんざーい!

ワインよ、ばんざい!

農夫たち

大地よ、ばんざい

われらに実りを与えてくれる大地!

樽よ、ばんざい!

ワインの入れ物の樽!

かめよ、ばんざい!

ワインが流れ出てくるかめ!

一同

ばんざい、ばんざーい!

ワイン、ばんざい!

農夫たち

おいで、兄弟!

杯を満たそう

コップを飲み干そう!

愉快にやろう!

一同

さあ、愉快にやろうぜ

ばんざい!ばんざーい!

声高らかに叫ぼう!

ばんざい!ばんざーい!

ワイン、ばんざい!

農婦たち

さあ口笛を吹いて

太鼓を叩きましょう

フィドルを弾き

リラを鳴らし

ヤギの角笛を吹きましょう

農夫たち

もう子供たちははしゃぎ

男の子たちは跳びまわっている

あそこでは娘たちが

若者と腕を組んで

農民の踊りの列に加わっている

農婦たち

ハイサ、ホプサ、踊りましょう!

農夫たち

兄弟たち、おいで!

農婦たち

ハイサ、ホプサ、跳びはねましょう!

農夫たち

杯を満たせ!

農婦たち

ハイサ、ホプサ、踊りましょう!

農夫たち

コップを飲み干せ!

一同

さあさあ!愉快にやろう!

農夫たち

イエイ、イェーイ!

跳びはねろ、踊れ!

笑えよ、歌えよ、叫べよ、騒げよ!

さあ、最後のかめも空けてしまおう!

一同

喜びでいっぱいのブドウの果汁を讃えて

声をあわせて高らかに歌おう!

ハイサ、ヘーイ!

ばんざい!ばんざーい!

ワイン、ばんざい、尊いワイン

憂さや心配ごとは追い払ってしまおう!

ワインを讃えて、声高らかに

何度も何度も喜びのばんざいを叫ぼう!

さあ、愉快にやろう!

声高らかに叫ぼう

ばんざい!ばんざーい!

フェスタの始まりを告げるファンファーレのような和音で宴は幕を開けます。合唱は、ドイツ・ワルツのリズムで元気よく、しかしやや抑え気味に始まりますが、それはしらふの状態を表し、これからだんだん盛り上げていくための布石であるのは言うまでもありません。農夫たちと農婦たちの、飲もうよ!歌おうよ!の掛け合いは、いくぶん真剣な対話のようでさえあります。飲み会には無理強いも付きものですが(今ではアルハラと言われますが)、そんな雰囲気も醸し出しています。

ここで讃えられるのはワインそのものであって、このような場には欠かせない酒の神バッカスは登場しません。やはり、聖譚曲であるオラトリオで異教の神を出すわけにはいかないのでしょう。モーツァルトの『後宮からの誘拐』の『バッカスばんざい!』は、オペラだからできたことです。一方キリスト教にあっては、ワインはイエス尊い血ですが、その要素もここで出すわけにはいかず、神を讃える文言は避けられ、あくまでも村祭りの乱痴気騒ぎに留められています。だからこそハイドンは苦労したのですが。

やがて音楽の調子が変わり、農婦たちが楽器を鳴らそう、と呼び掛けると、角笛の音と太鼓が鳴り響き、オーボエが楽し気な口笛を表します。そして、フィドル、リラ(ハーディ・ガーディ)といった、繋留音をもつひなびた民族楽器の音色も模倣されます。実に芸が細かい!

ハイサ、ホプサ、というドイツ語の掛け声は、ハイサッサ、ホイサッサ、という感じで、モーツァルトの『魔笛』のパパゲーノでおなじみです。

合唱の後半はフーガになるのが定石ですが、この曲もフーガになろうとしますが、酔っ払っているので各声部は完全に提示できず、中途半端に終わります。〝千鳥足のフーガ〟と呼ばれます。フーガで酩酊状態を表現するなんて、まさにハイドンならではの独創であり、男爵も舌を巻いたことでしょう。

そして最後は、トライアングルやタンバリンが加わり、宴が最高潮に達したところで、サッと終わります。あっけなく感じますが、それは、舞台がクライマックスで一瞬にして真っ暗になったかのようであり、次にくる『冬』へと季節が移る、絶妙な演出なのです。

祭りのあと、宴のあとの、なんともいえない余韻が胸に残ります。

もう冬はそこまで来ているのです。

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ロレンツォ・バルトリーニ『アモールのテーブル』

 

動画は、ベルギーのバート・ヴァイ・レイン指揮ル・コンセール・アンヴェルス、オクトパス・シンフォニー合唱団の演奏です。(第25~28曲)


Haydn The Seasons [HD] - Autumn part 4: wild hunt and wine feast

 

次回からは、最後の章『冬』です。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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