孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

〝ファンタジー〟の意味するものとは。ベートーヴェン『ピアノソナタ 第13番(幻想曲風ソナタ)変ホ長調 作品27-1』

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矛盾した?タイトル

前回に続き、ベートーヴェン〝実験期〟ピアノソナタを聴いていきます。

1800年から1802年にかけて作られた2曲のソナタ「作品27」は、特に『幻想曲風ソナタ Sonata quasi una Fantasia』と名付けられ、1802年に出版されます。

幻想曲(ファンタジア)は、モーツァルトも何曲か書いていますが、曲の内容が幻想的、ファンタジック、という意味ではありません。

形式にとらわれず、作曲者の自由な発想、想像力のおもむくままに作られた曲、というニュアンスのジャンルです。

若きベートーヴェンがウィーンにピアニストとしてデビューして喝采を浴びたのは、即興演奏でした。

これは「ファンタジーレン」と称されて、コンサートの余興的な目玉になっていましたが、この精神でピアノソナタを構築した、というのが今回の実験なのです。

ソナタというのは、ハイドンが整え、モーツァルトが深めた形式美がその真骨頂なのに、形式にこだわらない幻想曲風にソナタを作った、というわけです。

〝幻想曲風ソナタ〟というタイトルそのものが矛盾をはらんでいますから、これを見た当時の人は〝はあ?〟〝わけわかんない〟と思ったことでしょう。

ただ、もともとソナタという言葉も、中世以来意味を変えて受け継がれてきましたし、「ソナタ」なのに「ソナタ形式」を取らないなんておかしい、という議論も、古典派だけの話で、音楽論としてもあまり重要なことではありません。

オーケストラの「シンフォニー(交響曲)」と同じ形式のピアノ独奏曲を指すのに、適当なジャンル名がないので、とりあえず「ソナタ」と呼んでいる、というのが実情ですから。

ベートーヴェンがこの曲にこのようなタイトルをつけたのは、形式論などくだらない、と言っているかのようです。

境目はあえて曖昧に

さて、今回は「作品27」の1曲目、ピアノソナタ 第13番 変ホ長調を聴きますが、2曲目は有名な第14番 嬰ハ短調〝月光〟〝ムーンライトソナタです。

第13番には特にニックネームはないため、この曲だけ「幻想風」と呼ばれることもありますが、〝月光〟の方も「幻想風」です。

同じ作品27でも曲の献呈先は違っていて、第13番はリヒテンシュタイン公爵夫人ヨゼフィーネ、〝月光〟は有名な恋人、伯爵令嬢ジュリエッタ・グイッチャルディです。

ヨゼフィーネの夫、ヨーゼフ公はあのヴァルトシュタイン伯爵の従妹にあたり、同じくベートーヴェンの熱烈な後援者でした。

第13番の特徴は、楽章の境目が曖昧なことです。

構成を4楽章とする場合と、3楽章とする場合があります。

解説書やCDによっても異なっています。

4楽章とした際の第3楽章が短く、また第4楽章の中で第3楽章のモチーフが再現されるので、これは一緒の楽章では?と見ることもできるのです。

ここで取り上げる演奏は4楽章としていますが、各楽章も「アタッカ接続」で切れ目なく続けて演奏するよう指示があり、単楽章である幻想曲を志向しています。

〝幻想曲風ソナタ〟であるゆえんです。

ソナタという枠の中にかろうじてとどまりながら、自由に飛翔するベートーヴェンの〝ファンタジー〟を味わいましょう。

ベートーヴェンピアノソナタ 第13番(幻想曲風ソナタ変ホ長調 作品27-1

Ludwig Van Beethoven:Piano Sonata no.13 in E flat major, Op.27-1

演奏:ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ

Ronald Brautigam (Fortepiano) 

第1楽章 アンダンテーアレグロ

前作第12番と同じように、第1楽章にソナタ形式をおかず、ロンドになっています。「幻想風」というタイトルにつられてこの曲を聴き始めると、冒頭テーマの素朴さに期待を裏切られることになります。和音の簡単な連打に、左手のバスが音階で応える対話形式です。穏やかですが、だんだんと思いは高ぶっていきます。恋人同士のぎこちない会話が、だんだんと盛り上がってゆくかのようです。高潮に達したことを表すスフォルツァンドには、胸がいっぱいになります。全体として抑制的なのが魅力ですが、中間部のアレグロで激情が溢れ出します。しかしそれもつかの間で、再び落ち着いた対話に戻り、何とも素晴らしい余韻を残して次の楽章につなぎます。

第2楽章 アレグロモルト・エ・ヴィヴァーチェ

何も書かれていませんが、実質はスケルツォです。ハ短調のテーマは、前楽章の穏やかさから変わり、不安をはらんだものになりますが、ここでもあまり激しさはなく、舞台の急展開というわけでもなく、前楽章から自然な感じでつながっています。トリオは低音のスタッカートの上に、高音がこれも断片的な旋律を乗せていきます。スケルツォの再現では変奏がなされて、不安感に焦燥感が加わったかのようです。どこか現代的な響きのする素晴らしい楽章です。

第3楽章 アダージョ・コン・エスプレッシオーネ

深い抒情をたたえた、感動的な音楽です。わずか26小節しかありませんが、3部構成になっていて、濃い内容になっています。宇宙的な瞑想の世界に誘われるかのようです。最後にはカデンツァ風にトリルが奏でられ、次の楽章を導入していきますが、これを序奏ととらえると、この曲は3楽章、ということになります。

第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ

活発で輝かしいロンドです。この曲は、ロンドに始まってロンドに終わるわけです。しかし、途中で第3楽章が再現されるなど、ロンド形式も大きく変形されています。まさに、自由な〝幻想曲風〟です。テーマは縦横無尽に展開され、調性の動きを追っていくと、ソナタ形式の原理も見出せます。ベートーヴェンが聴衆を魅了したというファンタジーレンはかくや、と思わせます。この曲あたりから、ベートーヴェンは最終楽章の重要性を高めていきます。ハイドンのフィナーレは、軽く、サッと盛り上げて終わる、というもので、それが拍手喝采の呼び水となっていましたが、ベートーヴェンはフィナーレを曲の結論に位置付けて、長大なものにしていくのです。そのコンセプトは、第5、第9シンフォニーにつながっていきます。

 

動画は第1楽章だけですが、1813年ブロードウッド製のスクエアピアノの複製の響きが素晴らしいです。


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今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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