孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

勇気と元気がもらえるシンフォニー!ベートーヴェン『交響曲 第2番 ニ長調 作品36』

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1803年のベートーヴェン

長くかかった2作目のシンフォニー

前回までに続き、1803年4月5日にアン・デア・ウィーン劇場で開かれた、ベートーヴェンの自主コンサートで演奏された曲を取り上げますが、これが最後です。

メイン・プログラムのオラトリオ『オリーブ山上のキリスト』、第3ピアノ・コンチェルトに続き、シンフォニー 第2番 ニ長調です。

このコンサートでは、シンフォニー 第1番 ハ長調も再演されました。

第1番は1800年の初めての自主コンサートで初演されましたから、シンフォニーについては3年越しの新曲、ということになります。

不滅の9曲、と讃えられるように、ベートーヴェンのシンフォニーは、ハイドンの104曲、モーツァルトの41曲に比べて極端に少ないですが、彼にとってはシンフォニーは特別なジャンルでした。

1曲、1曲にかける気合は、他のジャンルとは明らかに異なり、鬼気迫るものを感じます。

いよいよ、その第2弾、ということになります。

斬新な工夫のてんこ盛り

作曲は、スケッチ帳から、第1番が初演された直後あたりから構想され始めた、とされています。

編成は第1番と同じですが、楽器の用法はさらに発展を遂げています。

例えば、これまで同じ動きをしていたチェロとコントラバスが独立する箇所が出てきたり、管楽器の使い方、特にクラリネットがこれまでの音色に彩りを加える役割から、大事な旋律を担うようになったりと、新しい工夫が凝らされています。

第3楽章が、これまでのメヌエットから、スケルツォに置き換えられたのも、画期的といわれます。

ただ、他のジャンルの曲ではすでに試みられていて、シンフォニーでの導入は時間の問題でした。

これによって、舞曲、つまりダンス・ミュージックのコーナーだった第3楽章の役割が、新しいものになっていきます。

謎の明るさ

第1番も明るく、元気いっぱいの曲でしたが、第2番はさらに精気に満ちあふれ、その躍動感に圧倒されます。

ニ長調のシンフォニーは、ハイドンモーツァルトも派手で元気な曲になりますが、ベートーヴェンにかかるとさらに凄まじいことになります。

古来、この明るさと、この作曲時期に重なる『ハイリゲンシュタットの遺書』の苦悩がどうしても結びつかず、謎として論じられてきました。

苦悩を乗り越え、新しい道に邁進する決意の表れなのだ、とする解釈が主流といえます。

しかし、前にも述べたように、バロックや古典派の作曲家は、自分の気分を作品の曲調に影響させることはほとんどないと思います。

仕事と気分は別にするのがプロです。

ただ、オペラやオラトリオなどの登場人物の気持ちを表現するときに、自分の思いや経験を参考にすることはあったでしょう。

前回見たように、ベートーヴェンが自分の苦悩を反映させたのは『オリーブ山上のキリスト』の方です。

また、ハイリゲンシュタットでのスケッチ帳には、第2シンフォニーの作曲を行った形跡がありません。

ウィーンに戻ってきてから、コンサートに向け、それまでの構想を一気に形にしたものと考えられます。

勇気と元気がもらえるシンフォニー

しかし、この曲は、聴く人に勇気と元気を与えてくれます。

私も大学生になってからこの曲と出会い、第1楽章の主部に入ってからの、一陣の風のような弦のひらめきを聴いて、身震いがするほど感動し、悩みが吹き飛ぶような気がしました。

そしてその感動をクラシックを聴く女友達に伝えようと、『ベートーヴェンの第2番って、元気もらえるんだよ!』と話したところ、彼女は『なんで!?なんで!?』と異様にびっくりしたのです。

わけを聞くと、ちょうど偶然、その頃彼女も第2番にハマっていて、同じように〝元気もらえる〟思いをしていたとのことでした。

私生活を見られているように感じて、ストーカーのように気味悪がられてしまったわけです(涙)

それにしても、この曲の力をあらためて実感した次第です。

ベートーヴェンが苦悩の中で生み出した作品だからこそ、人に勇気を与えてくれるのかもしれません。

ベートーヴェン交響曲 第2番 ニ長調 Op.36

Ludwig Van Beethoven:Symphony no. 2 in D major, Op.36

演奏:ホルディ・サヴァル指揮 ル・コンセール・ナシオン(古楽器使用)

Jordi Savall & Le Consert des Nations

第1楽章 アダージョモルトアレグロ・コン・ブリオ

序奏は、第1番よりも長大になり、充実しています。ドカン、と全オーケストラによる強打のあと、そこからオーボエファゴットが抜けて、テーマの元となる歌を歌います。次の強打の間にはフルートとクラリネットがつなぎを入れ、管楽器を効果的に使おうという意欲が感じられます。ティンパニを伴った弦と金管の緊張あふれる厳しい音色と、木管の柔らかい音色とのコントラストが、実にドラマチックです。これから怪物が登場するのでは、というくらいの緊張が極限まで高まったあと、ひらりと主部に移ります。

主部では、まずヴィオラとチェロの低音がユニゾンで第1主題を提示し、第1ヴァイオリンは、例の一陣の風を吹かせて脇役に回るという、異例にして斬新な始まり方をします。そして、全オーケストラが咆哮し、弦はワクワクするようなリズムを刻みます。第2主題は、クラリネットファゴット、ホルンが軽快に奏で、それに影響されるように、それまで厳しかった弦が明るさを含んで応えます。そして、手に汗握るようにエキサイティングな調子で展開部に突入していきます。

展開部では、一陣の風が、嵐の前触れのような不吉な風となって何度も吹き付けます。そして、畳みかけるように音楽は緊張を増してゆき、クライマックスではトランペットとホルンが実にかっこいいファンファーレを交代で吹き鳴らします。

再現部には決意と確信がみなぎり、聴く人の心に安心感と安定感をもたらします。コーダは、壮大な物語の終わりのように輝かしいものです。ハイドンモーツァルトとは違う、まさに新しい音楽です。

第2楽章 ラルゲット

一転、静謐なまでに穏やかな世界が広がります。この楽章での管楽器の使い方がまさに画期的といわれています。旋律は、これまで脇役が多かったクラリネットが受け持ち、ホルンが持続和音で支え、ファゴットが和します。第1主題はウィーンの舞曲風で、後に歌詞がつけられるほど親しまれました。弦と管の対話で進んでいく物語は、比類のない美しさです。中間部で不安な影が忍び寄りますが、それもおおらかにたゆたう波に覆われて消えてゆきます。第4シンフォニーの美しい第2楽章にも勝るとも劣らない緩徐楽章です。

第3楽章 スケルツォアレグロ

アウフタクトを置かず、いきなりの強起で突っ込んできます。メヌエットではなく、スケルツォであることを知らしめるかのようです。目が覚めるような強烈なコントラスト。無骨で荒々しく、奔放な音楽。トリオは木管の柔らかい音色にホッとしますが、それもつかの間。すぐにオーケストラの強奏が割り込んできます。本来、シンフォニーの中でほっと一息、優雅なティータイムのような第3楽章が、ここでは力強いメッセージを発しているです。

第4楽章 アレグロモルト

強いひねりのような、変わったテーマから始まりますが、第1楽章主部の第1主題と関連性をもたせていて、曲全体に統一感をもたせる試みをうかがわせます。それを弦が囃し立てるかと思うと、ゆったりとしたチェロのうねりがそれに覆いかぶさります。それは第2主題ではなくて、さらに音楽が盛り上がったところで、木管が歌い出すのが第2主題です。それをまた弦が茶化すように応じるのが、実にユーモラス。そうかと思うと、一転、緊張が高まり、手に汗握る展開になってゆきます。

ソナタ形式なのですが、形式にこだわらず、同じテーマが繰り返し現れるので、ロンド形式にも似ていて、「ロンド・ソナタ形式」と呼ばれることもあります。次の『エロイカ』シンフォニーで確立される4部構成ソナタ形式の始まりとみる向きもあって、いずれにしてもベートーヴェンの新たな取り組みが随所に見られる楽章です。

目くるめくような楽器たちの饗宴に身も心も奪われ、聴くほどに充実感に包まれます。最後には、弦が抑制的にトレモロを奏でたあと、それを予告のようにして、全オーケストラが一斉に爆発します。今聴いても、新しさを感じるフレッシュなシンフォニーで、次の第3番の革命の予兆となっています。

コンサートで大儲けをしたベートーヴェン

アン・デア・ウィーン劇場で開かれた、初のオール・ベートーヴェン・プログラムのコンサート。

作曲は当日朝まで続けられ、リハーサルはバタバタ、ピアノ独奏の楽譜は間に合わず、プログラムは長すぎてカット…と、波乱だらけの演奏会でした。

ベートーヴェンの新曲3曲が披露されたわけですが、賛否はこもごもでした。

ただ、記録に残っているのは、『ベートーヴェンは大儲けをした』という事実です。

ライプツィヒの『総合芸術新聞』は、5月に次のように報じています。

ベートーヴェン氏は自作のカンタータ《オリーブ山上のキリスト》を上演した。翌日、誰も理解できなかったのは、なぜベートーヴェン氏がこの音楽に第1席を2倍に、遮断席を3倍、そして桟敷席に12ドゥカーテンを払わせたことである。*1

ベートーヴェンは入場料を、言い方は悪いですが、かなりぼったくった、というわけです。

結果、ベートーヴェンはこの一夜で1,800グルデンの収入を得た、とのことです。

リヒノフスキー侯爵からもらっている年金の3年分であり、出版社に楽譜を売りつけても、400~500グルデンが限界でした。

前評判も高かったため、異例の高額の入場料にもかかわらず、客の入りはよかったということです。

苦悩の日々を超克したベートーヴェンは、自分は並みの芸術家とは違う、という確固たる自信をつけ、社会の評価もついてきていることを示しています。

このコンサートを機に、傑作だらけの「中期」に突入していくのです。

 

動画は、コロナ禍の中ベートーヴェン生誕250周年を記念した、古楽器使用のハノーヴァー・バンドのオンライン・コンサートです。 


www.youtube.com

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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*1:大崎滋生『ベートーヴェン像再構築2』春秋社