孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

人間の愚かさか、運命の理不尽さか。古典悲劇の真髄。ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』⑥「第4幕」~ベルばら音楽(27)

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ヒッポリュトスの死

自らさすらいの旅に出る王子

ジャン=フィリップ・ラモー(1682-1764)のオペラ、『イポリートとアリシー』

今回は第4幕です。

舞台は、海辺に面したアルテミス神殿のある森。

月と狩の女神アルテミス(ディアーヌ、ダイアナ)の居場所は深山の森なので、海がそばにあるのは不自然なのですが、海の神ポセイドン(ネプテューヌネプチューンがからんでくるために、このような舞台にせざるを得ないのです。

幕が開くと現れるのは、傷心のヒッポリュトス(イポリート)

彼は、義母パイドラ(フェードル)に愛を告白され、拒絶したら、逆に義母に迫ったと父王テセウス(テゼー)に誤解されてしまい、言い訳したらしたで義母を告発することになるため、自ら身を退いて、国外に亡命せざるを得なくなったのです。

さらに父王の怒りは収まらず、息子に死を与えるようポセイドンに願ったのは知る由もありません。

ラモー:オペラ『イポリートとアリシー』「第4幕」

Jean-Philippe Rameau:Hippolyte et Aricie

演奏:マルク・ミンコフスキ指揮 レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

Marc Minkowski & Les Musiciens du Louvre

第1場 ヒッポリュトス『ああ!1日で愛するものすべてを』

ヒッポリュトス

ああ!

1日で愛するものすべてを失うとは

父は私をこの地から永久に追放した

アルテミスも愛するこの地から

あの美しい瞳を見ることも、もうないだろう

あれほどの幸せだったのに

私が恐れる災いも、私が失う降伏も

すべてが私の心をこの上ない苦しみで打ちのめす

私の命を覆う恐ろしい雲の下で

世の人々は私の名誉をどう思うだろう?

哀切あふれるこの曲は、ロンド形式をとっています。

結婚を誓うふたり

歌い終わると、恋人アリシーが現れ、ヒッポリュトスがひとりでさすらいの旅に出ようとするのを責めます。

アリシーは、ヒッポリュトスが自分に恋したせいで追放されたと思っているのですが、ヒッポリュトスがいや、そうではない、王妃の怒りを買って…と口ごもるうち、アリシーは、経緯を悟ります。

そしてアリシーは、亡命の旅に自分も連れて行ってください、と懇願します。

ヒッポリュトスはアリシーにそんな苦労はさせられない、としながらも、彼女と離れたくないのはもちろんですから、歓喜のうちに受け入れ、結婚の誓いをし、デュエットを歌います。

第2場 アリシーとヒッポリュトスの二重唱

アリシーとヒッポリュトス

永久に変わらぬ貞節を誓いあおう

来たりたまえ、森の女王よ、私たちの契りを結びたまえ

私たちの誓願の香りがあなたのところまで立ちのぼりますように

あなたが私たちの心の中の唯一の支配者でありますように

この二重唱の伴奏はオーケストラではなく、通奏低音だけで行われており、ふたりの純粋な気持ちを表わしています。

体育会系女神、アルテミス

ふたりはアルテミスに結婚の誓願を立てますが、処女神アルテミスは純潔の神であり、本来はお門違いです。

結婚を管轄する神は、大神ゼウス(ジュピター)の妃ヘラ(ジュノー)なのです。 

そこに、遠くから角笛の音が聞こえ、アルテミスの従者の狩人たちがやってきて、狩りの楽しさを歌うディヴェルティスマンが始まります。

狩りは当時の貴族の最大の野外エンターテインメント、スポーツであって、現代ではさだめしゴルフに当たるでしょうか。

〝狩りの音楽〟は当時好まれたテーマだったため、観衆のために挿入されたものであって、直接ストーリーには関係ないのですが、狩りの女神アルテミスを讃える音楽でもあるので、アルテミスが本来好まない結婚を認めてもらうためにも、アリシーとヒッポリュトスはこの催しを敬意をもって見守ります。

第3場 狩人の合唱

狩人たち

あっちにも、こっちにも、我々の矢を飛ばそう

勝利に沸き立とう

人里離れた洞窟にも

我らの栄光を鳴り響かそう

第3場 狩人たちのロンド形式による第2のエール

女の狩人

さあ狩りへ!

武器を取れ!

男の狩人

武器を取ろう!

合唱

みな狩りに急ごう

武器を取ろう!

女の狩人

愛の神よ、地位をお譲りなさい

いいえ、決して権力を振るわれますな

アルテミス様が支配なさいますように

アルテミス様が私たちを導かれますように

森の奥で

女神様の支配のもとに平穏に暮らしましょう

いいえ、もうなにものにも惑わされません

ほかに快楽はいりません

惑わされる心配ごともありません

ここでは恋など笑い飛ばし

こよなく楽しい日々を過ごすのです

スポーツに青春を賭け、空しく軟弱な恋愛などにかまけないように、というのが、体育会系女神アルテミスの教義なのです。

なおホルンは、バロック古典派音楽では狩りを表わす楽器というのがお約束です。 

ハイドンオラトリオ『四季』にも同じような曲想の狩りの場面があります。

ポセイドンが遣わした怪物現る

そこで突然、風がざわめき、波が荒れ、海から恐ろしい怪物が現れます。

ポセイドンがヒッポリュトスを懲らしめるために遣わした怪物でした。

ヒッポリュトスは2輪馬車に乗り込み、怪物に立ち向かっていきます。

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怪物に立ち向かうヒッポリュトス
第3場 嵐と合唱

合唱

なんという音!

なんという嵐!

ああ!海が山のように盛り上がる!

なんという怪物を、海は我々の目の前に現わすことか!

おおアルテミスよ、早く来てください!

天から飛んできてください!

ヒッポリュトス(怪物の方に進む)

来たまえ、怪物の弱点はここだ!

アリシー

やめて、ヒッポリュトス!

どこに行くの?

あの人はどうなっちゃうの?

こわい、震えが止まらない

これが正しい神様のやり方なのでしょうか?

アルテミス様さえあの人を見捨てられた

合唱

なんとしたこと!炎が彼を包む!

アリシー

なんて厚い霧!

すべてが消え失せてしまう

…ああ!ヒッポリュトスは出てこない…

死んでしまいそう…

(アリシー、気を失って倒れる)

合唱

おお、むごい不幸!

ヒッポリュトスはもういない

ヒッポリュトスが2輪馬車で怪物に向かっていくと、怪物は火を噴き、あたりは深い煙に覆われて、何がどうなってしまったのか分かりません。

ようやく霧が晴れてくると、そこには怪物の姿も、ヒッポリュトスの姿もありませんでした。

アリシーはあまりのことに気を失って倒れています。

モーツァルトオペラクレタの王イドメネオ』でも、ポセイドンが遣わした海の怪物に王子イダマンテが立ち向かっていく場面がありますが、イダマンテは見事に打ち倒しています。

前述のように、神話では、ヒッポリュトスは海辺を馬車で旅するうち、突然海から現れた怪物(馬とも)に馬が驚き、暴走した馬車から振り落とされたヒッポリュトスは、引きずられて死にます。

古代ギリシャエウリピデスの劇では、引きずられて瀕死の状態で父テセウスの元に着き、真実を告げてから事切れ、テセウスは取り返しのつかない後悔に暮れます。

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ヒッポリュトスの死

狂乱のパイドラ

一同呆然とするところに、騒ぎを聞きつけた王妃パイドラが現れます。

そして、ヒッポリュトスが死んだことを聞き、狂乱状態となります。

第4場 パイドラの嘆き

パイドラ

私は叫びを聞いてここに来たが、この嘆きは?

合唱

ヒッポリュトスはもういない

パイドラ

彼はもういない!

おお、死ぬほどの苦しみ!

合唱

おお、後悔しても無駄だ!

パイドラ

いったい何があって、彼は永久の闇夜に落ちたのか?

合唱

恐ろしい怪物が波間から現れ

我々から英雄を奪っていった

パイドラ

いや、彼の死は私のせい

彼が冥界に堕ちたのは私のせい

ポセイドンはテセウスのために裏切り者の復讐をしようと思ったのだ

私は罪のない血を流してしまった!

なんということをしてしまったのだろう!

悔やんでも悔やみきれない!

雷の音が聞こえる

すさまじい音!なんと恐ろしい光!

逃げよう、どこに隠れよう?大地が揺れる

地獄が私の足元で口を開く

すべての神々が願いを聞き、私と戦いを交えるために、

手に手に武器をとって現れる

残酷な神々よ、情け容赦のない復讐者たちよ

私を恐怖で凍りつかせる怒りを収めてください

ああ!もし神々が公正なら

二度と私に雷を投げつけないでください

不当な行為で命を奪われた英雄の栄光が

あなたがたに救いを求めています

彼の命の創造主に

彼の無実と私の罪を打ち明けさせてください

合唱

おお、後悔しても無駄だ!

ヒッポリュトスはもういない

(幕)

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ヒッポリュトスに迫るパイドラ

愛する人を死に追いやってしまった悔恨と、神々の一族に対する理不尽な仕打ちにたいする恨みとが交錯し、激しい独唱となります。

そして、突き放すような合唱の強い印象。

この運命に相対した人間としての魂の叫びは、ギリシャ古典劇や、ラシーヌを代表とするフランス古典劇の真骨頂といえます。

オペラではその場面はありませんが、パイドラはこのあと自死することが暗示されています。 

 

次回、最終幕です。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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