孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

イケメン・ヴァイオリニストがアレンジした『G線上のアリア』。バッハ『管弦楽組曲(序曲) 第3番 ニ長調 BWV1068』~ドイツ人の作ったフランス風序曲⑩

G線上のアリアの原曲

バッハ管弦楽組曲組曲、今回は第3番二長調です。

第2楽章のエールが、後世の編曲でG線上のアリアとして独立して演奏され、バッハはもとより、クラシック音楽の代表曲のひとつとなっています。

しっとりと愛を語るかのごとく甘美を極めた歌ですが、この曲以外の組曲全体としては、バッハの曲の中でもド派手な部類です。

雰囲気だけでいえば、第1番や第2番の組曲の中にいたほうがしっくりしているような気がして、どうもこの組曲の楽章としてはバランスが悪い思いがするのは私だけでしょうか。

なにしろ、編成はトランペット3本にティンパニを伴う、すこぶる野外的で祝祭的な大規模な曲なのです。

ヘンデルの『王宮の花火の音楽』のように、何かのイベントのために作られたとしか思えません。

成立時期の謎

しかし、この曲の成り立ちも、他の序曲と同様諸説あって、確定していません。

ライプツィヒ時代の1731年頃に、コレギウム・ムジークムのために書き下ろされたというのが有力な説ですが、残っているのは一部バッハ自身も含む筆写のパート譜のみです。

前述のように、コレギウム・ムジクムは夏の間は広場でコンサートを開いていましたから、このような派手なフランス風序曲を市民のために作った可能性もありますが、曲の性格上、どうしても宮廷と無縁とは思えないのです。

やはり、ケーテン時代の終わり、1722年頃に宮廷のために作曲されたという説の方が私にはしっくりきます。

「エール」という曲をバッハが作ったのはこの時期からですし、同じ二長調で、似た性格を持つ第4番は、1725年のクリスマスにその序曲がカンタータに転用されているので、原曲はそれ以前に作曲されたとすると、ケーテン時代の可能性もあり、この曲も同じ時期に作曲されたのではないか、とも考えられます。

ただし、第4番にはオリジナルの初稿の一部が残されていて、こちらにはトランペットとティンパニが含まれていないのです。

となると、この第3番も初稿ではトランペットとティンパニは無かった可能性があり、これらの宮廷的なアレンジはライプツィヒで加えられた、ということになります。

何ともややこしいのですが、初稿を再現した演奏も最近は出てきて、いろいろ想像を膨らませながら、その違いを楽しむのも一興です。

イケメン・ヴァイオリニストによる編曲

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アウグスト・ヴィルヘルミ(1845-1907)

さて、第2楽章だけが『G線上のアリア』として有名になったのは、19世紀後半に活躍したヴァイオリニスト、アウグスト・ヴィルヘルミ(1845-1907)の編曲によります。

ヴィルヘルミは、9歳で天才少年としてデビューし、リストに認められて活躍しました。

リストもその美貌と超絶テクニック、そして、ベートーヴェンのシンフォニーをピアノ1台で、オーケストラ以上の迫力で演奏してみせるなど、派手な演出で貴婦人たちをメロメロにしましたが、ヴィルヘルミもそのヴァイオリン版だったようです。

当時、4本あるヴァイオリンの弦のうち、一番低いG線だけを使って演奏するテクニックがもてはやされており、ヴィルヘルミはそのコンセプトで古い名曲をアレンジしてコンサートで弾いていました。

そのうちの1曲が、このバッハの編曲というわけです。

イケメンですし、自らを売るプロモーションも上手だったようです。

ピアノ伴奏つきのヴァイオリン・ソロで、ニ長調からハ長調に移調し、さらに1オクターヴ下げていますので、かなり渋くなりますが、それがさらに甘美で現代的に聞こえます。

バッハ『管弦楽組曲(序曲) 第3番 ニ長調 BWV1068』

Johann Sebastian Bach:Ouverture no.3 D-dur BWV1068

演奏:リチャード・エガー指揮 アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック

Richard Egarr & Academy of Ancient Music

第1楽章 序曲

トランペットの華麗なファンファーレで始まる、このフランス風序曲は、まさに気宇壮大。3つのオーボエと弦がスケールの大きなテーマを奏でます。それは宇宙的な規模と言っても大げさではないでしょう。続く「急」の部分では、例によってイタリア風のコンチェルト・グロッソのスタイルを取り、ソロ楽器群(ソーリ)と合奏(コンチェルティーノ)がフーガを自由闊達に繰り広げていきます。それは、聴くほどに思わず体が動いてしまうような盛り上がりぶりです。緩ー急ー緩ー急と繰り返されます。

第2楽章 エール(G線上のアリア

エール(Air)とは、これまでの「ベルばら音楽」の稿で聴いてきたフランス・オペラの曲名です。形式は自由なもので、歌であったり、舞曲であったりします。イタリア語では「アリア」となり、オペラのメイン曲のことを指すのでそちらの方がポピュラーですが、明らかにフランス起源の曲ですので、これは「エール」と呼ぶ方が適切です。

第1ヴァイオリンが冒頭、通奏低音の対位旋律の足取りの上を、じっくりと引き延ばした一音が、ひるがえるようにして展開していく瞬間は、聴く人を魅了してやみません。バッハがどんな意図でこの曲を作ったか分かりませんが、ここにあふれ出る優しさと愛は、これまでどれだけの人の心を癒してくれたことでしょうか。

第3楽章 ガヴォット

バッハのガヴォットの中でも出色で、元気のいい人気曲ですが、前曲に浸った気分を一気に変えてしまうのは、唐突感が無きにしもあらずです。さりげない第2ガヴォット(トリオ)では、トランペットもソロを聴かせてくれます。

第4楽章 ブーレー

独特なシンコペーション・リズムが楽しいブーレーです。第2ブーレーは存在しない、短く快活な曲です。

第5楽章 ジー

ジーグは組曲を締めくくる定番曲ですが、バッハの管弦楽組曲では唯一の例です。また、フーガ形式を採るフランス式ジーグではなく、イタリア・ジーグというのも特徴的です。まさにフランス、イタリアの折衷様式なのです。軽いリズムなのですが、トランペットを伴い、響きが重々しいのも面白いです。真面目で怖い顔をしたバッハが、ひょうきんに踊っているかのような、アンマッチの妙です。

 

さて、ムード音楽のようになってしまった『G線上のアリア』ですが、さらに様々なアレンジが加えられ、オリジナルの編曲版(ヴァイオリンとピアノ)は、意外と演奏は少ないです。

この動画もオーケストラ伴奏ですが、ぜひ原曲と聴き比べてみてください。名曲はアレンジしても名曲です。


Air On The G String, J. S. Bach - Anastasiya Petryshak, Violin

 

www.classic-suganne.com

 

次回は第4番 ニ長調を聴きます。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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