孤独のクラシック ~私のおすすめ~

クラシックおすすめ曲のご紹介と、歴史探訪のブログです。クラシックに興味はあるけど、どの曲を聴いたらいいのか分からない、という方のお役に立ちたいです。(下のメニューは横にスライドしてください)

調布国際音楽祭2019、バッハ・コレギウム・ジャパン〝協奏曲の夕べ〟に行ってきました。ヘンデル『水上の音楽 第2・第3組曲』~ドイツ人の作ったフランス風序曲③

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ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)

調布国際音楽祭2019、バッハ・コレギウム・ジャパン〝協奏曲の夕べ〟の感想

前回に続き、ヘンデルの有名な『水上の音楽 Water Music』の、第2組曲、第3組曲を聴きますが、その前に、きょう行ってきたコンサートの感想をちょっとつづらせていただきます。

鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンBCJは、間違いなく日本の古楽器オーケストラの最高峰ですが、これまで生演奏を聴く機会を逃していました。

今回、地元近隣で開かれた『調布国際音楽祭』でコンサートがあるということで、ようやく行くことができました。

鈴木正明氏のご子息、鈴木優人氏が、この音楽祭のエグゼクティブプロデューサーをされているのです。

プログラムは、バッハの宗教音楽を得意とするBCJには珍しく、コンチェルト特集。それも、ヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハそれぞれ2曲ずつで、いずれも個性的な曲ばかりを集めた、なるほどと思わずうなってしまう、素晴らしい組み合わせでした。

私は最前列に陣取りました。コンサートホールのいい席は、音響がバランスよく聴ける中程といわれていますが、バロックに関していえば、私は前であるほどいいと思っています。オケの近くでなければチェンバロの音など聴き取れませんし、当時の王様は一番前で聴いていましたから。まさに〝王侯の席〟です。

1曲目はヘンデルのコンチェルト・グロッソ作品6の6、ト短調

第1楽章の深淵な響きは、さすが、宗教音楽のプロ、BCJバロック短調は、CDで聴いていると退屈なときもありますが、生で聴くと本当にその世界に引き込まれていきます。

第2楽章はフーガになっていますが、主題の受け渡しが見事というほかありません。

第3楽章はこの曲のメイン、牧歌的なミュゼット。初めてBCJが見せる、温かい音楽です。チェロの懸田貴嗣氏の繫留音が心に沁み、中間部では、日本最高のバロック・ヴァイオリニスト、寺神戸亮と、山口幸恵氏のヴァイオリンが抒情的に歌い、思わず目頭が熱くなりました。

ミュゼットの音を模したこの曲は以前も取り上げました。オリジナルのミュゼットの音色はラモーのところで掲げています。

www.classic-suganne.com

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さて、第2曲目はヴィヴァルディのコンチェルト集『レストロ・アルモニコ(調和の霊感)』から第11番ニ短調

この曲は、この曲集の中でも特に好きな曲で、2台のヴァイオリンのソロから入ります。〝ヴィヴァルディは600曲のコンチェルトを書いたのではなく、同じコンチェルトを600回書いたに過ぎない〟という有名な酷評がありますが、これだけ斬新な工夫があるのに、どうにも納得できません。

ソロの導入のあと、トゥッティが入る箇所は実にかっこよく、しびれます。フーガ風の展開は、バッハを得意とするBCJの真骨頂です。

しっとりと抒情的な第2楽章をはさみ、激しい第3楽章。ヴァイオリンの山口幸恵氏、木村理恵氏の息はぴったりで、そこにチェロの懸田貴嗣氏の名人芸がからみ、聴く方も息つく暇もありません。

3曲目は、同じくヴィヴァルディの『四季』から夏。季節柄の選曲かもしれませんが、前曲に続き、ヴィヴァルディのかっこいい短調曲でたたみかけてくる感じです。

聴きなれた曲ですが、やはり生で聴くと迫力が違います。カッコウの鳴き声を模した寺神戸氏のヴァイオリンはまさに神業。最後の嵐の楽章も、実に充実した響きでした。

休憩を挟んで4曲目は、バッハの2つのチェンバロのためのコンチェルト、ハ短調BWV1060を、失われた編成、すなわち2つのヴァイオリンとオーボエのためのコンチェルトに復元した曲。

ソロ・オーボエの三宮正満氏の歌は完璧。切れ切れになりやすいバッハの音符を、実に伸びやかに演奏していて、曲が終わってもずっと耳に残ります。

寺神戸亮氏のヴァイオリンはさすがですが、それを支えるトゥッティの奥深さは、バッハゆえか、BCJゆえか。

5曲目は、なんと珍しいヘンデルのオルガン・コンチェルト作品4の5番、へ長調です。奥にあったポジティブ・オルガンが引き出され、鈴木優人氏が初めて登場して弾きます。

ヘンデルのオルガン・コンチェルトはなかなか演奏されませんが、オラトリオの幕間にヘンデル自身が妙技を披露した名作。パイプオルガンでやってはいけません。

オルガンの目の前に陣取った私は、その素敵な可愛い音色を思う存分堪能できました。

どこまでも優しい、神のごときヘンデル。まさに天上の音楽です。

鈴木優人氏はヘンデルの意図を完全に理解した演奏でした。チェンバロから指揮する父雅明氏との親子共演はまさに貴重です。

この場でこの曲を初めて聴いた観客も多かったと思います。その素晴らしさに驚いたことでしょう。これで、日本では完全にバッハの後塵を拝しているヘンデルの人気が上がることを願ってやみません。

このオルガン・コンチェルト作品4はまだこのブログでは触れていませんが、作品7は以前取り上げました。

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最後は、この音楽祭のフィナーレにふさわしい、バッハの管弦楽組曲第4番ニ長調

このブログでも、このフランス風序曲シリーズの最後に取り上げようと思っています。

ポピュラーな演奏は、トランペットとティンパニが加わった、派手で野外的な編成のものですが、これはライプツィヒ時代に後から両楽器が加えられたもので、ケーテン時代に作られたオリジナルにはこれらは含まれていなかった、とされています。

今回の演奏は、その初期稿を使った珍しいもので、私も初めて生で聴きました。

物足りないかと思いきや、オーボエファゴットがあれば十分に華やかだということが分かりました。ケーテンの宮廷で行われた、室内楽的な響きがまさに目の前に現出したのです。

トランペットとティンパニがいないと、こんなに安心して聴けるのか、と感じました(笑)

古楽器ならともかく、現代楽器でバッハをやると、金管が突出してしまい、やかましくて聴くに堪えないことが多いです。もちろんバッハが想定した響きではありません。

BCJ管弦楽組曲は、鈴木優人氏もオルガンで加わり、総勢で実ににぎにぎしく、リズムもハーモニーもぴったりで、バッハが活躍したケーテン宮廷はかくや、と思わせるものでした。

ここが現代の調布であることを忘れてしまう思いでした。

BCJの皆様、実に楽しい初夏の夕べをありがとうございました。

コンサート後のサイン会で、ミーハーにもBDに皆様のサインをいただき、言葉を交わせたのも感激でした。

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鈴木雅明氏のサインはディスク本体に。寺神戸亮氏は別にいただけばよかった…

ヘンデルは音楽の〝母〟?

さて、前回の続きにもどり、ヘンデル水上の音楽 、第2組曲、第3組曲です。

前回も触れたように、新全集での第2組曲はトランペット、第3組曲はピッコロやフルートが活躍する特徴があります。ただ、第2組曲は派手で華やか、第3組曲室内楽的でしっとりした傾向があるので、コンサートでは、旧全集のように両組曲を織り交ぜて演奏した方が効果的です。

実際の演奏もそのようなものだったことがうかがえるのですが、第2組曲ニ長調、第3組曲ト長調なので、バルヴのない当時の管楽器では両方は演奏できません。ふたつ楽器を持ち込んでいれば可能かもしれませんが、狭い舟の上で…?と謎は尽きません。

ちなみに、ヘンデルは、〝音楽の父〟ヨハン・セバスチャン・バッハに対して、〝音楽の母〟と呼ばれることがありますが、これは日本だけのようです。バロックの巨匠として、バッハ&ヘンデルと並び称らせるのに、バッハだけが父と呼ばれるのはバランスが悪い、と思った日本ならではの忖度なのでしょうか(笑)ヘンデルは男性なのですが…

先も触れたように、日本ではヘンデルの評価がバッハに比べてまだまだだと感じます。

ただ、この水上の音楽のような、艶っぽく色っぽい音楽を聴くと、 女性的な印象を受ける人がいたとしても分かる気もするのです。

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テムズ川上のジョージ1世とヘンデル(19世紀の想像画)

ヘンデル『水上の音楽』第2組曲 HMV349

George Frideric Handel: Music for the Royal Fireworks

演奏:ホルディ・サヴァール指揮 ル・コンセール・ナシオン

Jordi Savall & Le Consert des Nations 

第1曲 序曲

序曲ですが、フランス風序曲の形式ではないため、プレリュードと呼ばれることもあります。響きは明らかに第1組曲よりも充実していて、後年の作を思わせます。第2組曲はトランペットを主体としていますので、とても華やかですが、肩の力の抜けた、のびのびとした音楽です。この演奏ではティンパニがとてもよくマッチしていて、うきうきしてきます。ナチュラル・トランペットの名人芸に圧倒されます。

最後に、次の曲への導入があります。

第2曲 アラ・ホーンパイプ

序曲からの導入で始まるのは、やはりこの曲がふさわしいように思います。結婚式、卒業式など、華やかな式典の定番です。〝ホーンパイプ〟は前回も触れたように、英国のカントリーダンスです。しかし、鄙びた感じはみじんもない、都会的で粋な音楽です。リズムだけを援用したので〝アラ〟(~風)とわざわざつけたのかもしれません。

第3曲 ラントマン

ゆっくり、ゆったりとした典雅な音楽です。こうした抒情的なトランペットも魅力的です。中間部ではオーボエが哀愁のこもった旋律を奏でます。

第4曲 ブーレー

いつもながら、ヘンデルの闊達なブーレーです。この演奏では、まずオーボエが主旋律を奏で、弦がそれに続き、最後にトランペットが加わって、大いに盛り上げていきます。

第5曲 メヌエット

とても愛らしい、素敵なメヌエットで、思わず口ずさんでしまうようなご機嫌なフレーズです。すました貴婦人ではなく、お茶目でコケットな美女が踊っている姿が目に浮かぶのです。

ヘンデル『水上の音楽』第3組曲 HMV350

第1曲 メヌエット

第3組曲は序曲はなく、メヌエットではじまります。全集ではそうなっていますが、オリジナルは、おそらくこの曲でスタートしたわけではないでしょう。第3組曲はフルート、リコーダーといった木管が活躍する、室内楽的な音楽です。この曲はまさにその性格を表している、切ないくらいに優しい響きです。

第2曲 リゴドンⅠ

一転、元気なリゴドンです。子供ははしゃいでいるような無邪気な音楽です。

リゴドンⅡ

前曲に続き、さらにテーマを展開していきます。颯爽とした、カッコいい大人の世界を見せているようですが、ほどなく、前曲の子供の世界に戻っていきます。

第3曲 メヌエット

しっとりとした、抒情的なメヌエットです。舞曲とは思えないほど落ち着いています。

メヌエット

続いて木管が歌います。その切ない響きにはすっかり魅了されてしまいます。女性が少しすねたような、愛らしさも感じます。

第4曲 ジーグⅠ

リコーダーがリードし、スキップするような軽やかな音楽です。

ジーグⅡ

続いて、全楽器が加わります。この盛り上がりは素晴らしく、王族たちも大いに興奮したことでしょう。

 

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 

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